“冬と春が重なる”季節の境目を読み解く
目次
❄ 1.冬土用とは何か──「冷えの極み」と「春の兆し」が同居する時間
冬土用は、立春前の18日間にあたります。
一年の中で最も寒い時期である一方、暦の上では春がすぐそこまで近づいています。
古い暦観では、
- 冬の静けさ
- 春の気配
- 季節の不安定さ
この三つが同時に存在するため、冬土用は
「季節の境目が揺らぐ時期」 とされています。
日本人は、この微妙なゆらぎを“名付けて扱う”文化を持ち、
節分や七十二候と同じように、土用にも明確な意味を与えてきました。
🌱 2.五行思想の中の冬土用──水から木へ移る“調整”
五行説では、季節は次のように整理されています。
- 春=木
- 夏=火
- 秋=金
- 冬=水
- そして 季節と季節の間に置かれる気 が「土」
土用は「土の力」で季節を滑らかにつなぐ時間です。
冬土用は、
水(冬) → 木(春) へ移る前の“橋渡し”。
つまり、
冬の冷えをいったん整え、春の芽吹きにふさわしい身体と環境をつくる期間
と言えます。
現代の私たちが感じる「体調の揺らぎ」は、古代から“土の気の影響”と説明されてきました。
🧘♀️ 3.古い民間暦にみる「冬土用の心得」
冬土用には「急がず、争わず、焦らず」という戒めが残っています。
これは迷信ではなく、冬の暮らしに根ざした合理的な知恵でした。
避けられたこと
- 家の土台をいじる、大工仕事など
- 遠出や急ぎの旅
- 過労・冷えにつながる行動
逆に向いていたこと
- 体調の整え
- 作業の見直し
- 家の片づけ
- 保存食づくり
- 春支度(衣類・道具の準備など)
昔の人は、冬の気候の厳しさを「自然の節目」と捉え、
安全に春を迎えるための“生活のペース配分”として土用を用いました。
🌤 4.冬土用に現れる七十二候──自然はすでに“春の予告”をしている
冬土用の間には、七十二候にも春を思わせる兆しが並びます。
- 款冬華(ふきのはなさく)
雪の下から蕗の花が咲き、春の息吹を告げる候。 - 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)
沢の水が底から凍り、冬の極まりを表す候。 - 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)
鶏が再び卵を産み始める、生命の回復の兆し。
自然界は、冬と春が重なる様子を非常に繊細に伝えてくれます。
冬土用は、こうした変化を捉える“自然観察の季節”でもあったのです。
🍲 5.冬土用と食文化──「内側を整える食」の知恵
夏の土用ほど派手な食習俗はありませんが、冬には冬の養生文化があります。
身体を温め、内蔵をいたわる食
- 大根、かぶ、里芋などの根菜
- 味噌、甘酒、塩麹などの発酵食品
- 鍋物・汁物
- 焼き魚
東アジア医学では、冬は“腎”を養い、身体の中心を温める季節とされました。
冬土用はそのピークにあたり、特に内側を整えることが重視されました。
春を迎える食
- 菜の花
- 早春の山菜(立春が近づくと少しだけ出回る)
冬の終わりに春の気を取り込む感覚は、日本の季節文化らしい習慣です。
🏡 6.冬土用がもつ“新年の助走”としての意味
立春は旧暦の「新年」に相当します。
冬土用は、その直前の“準備期間”という位置づけでした。
現代に置き換えると、
- 新しい習慣を始める前の整理
- 大掃除の第二ラウンド
- 家計や仕事の棚卸し
- 気持ちの切り替え
など、“春を迎えるための助走期間”として使うと非常に相性が良い季節です。
🌸 7.まとめ──冬土用は「季節の継ぎ目を丁寧に扱う」文化
冬土用は、単なる寒い時期ではなく、
“冬の終わりと春の始まりが重なる、繊細な季節の境目”
です。
昔の人は、この曖昧さを丁寧に受け止め、
急がず、無理をせず、生活を整えました。
現代でも、冬土用は
- 体調管理
- 生活の整理
- 春の準備
に最適な、静かで豊かな季節と言えます。






