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❄ はじめに──冬の底に訪れる「季節のゆらぎ」
冬の土用は、立春の前18日間にあたる“季節の狭間”です。
最も寒さが厳しい時期でありながら、暦の上では春がすぐ近くまで来ています。
一年の区切りとして大切にされてきた立春を前に、心身と生活のリズムを整える期間が、この冬の土用です。
日本では、四季の移ろいを二十四節気でとらえつつ、節気と節気のあいだに生じる「揺らぎ」まで丁寧に扱ってきました。
土用はまさにその“揺らぎ”に名前を与えた季節文化といえます。
🌱 冬の土用の位置づけ──「春への助走」の18日間
冬の土用は、五行思想の「土」の気が一年を締めくくる時期とされます。
木(春)・火(夏)・金(秋)・水(冬)の四季のあいだに“土”を置くことで、季節の循環を滑らかにするという考え方です。
冬の土用の役割を一言でいえば、
「冬の静けさをいったん整理し、春の芽吹きを迎えるための地ならし」
です。
● 寒さの底にある
● 光が少しずつ長くなる
● しかし自然はまだ冬の姿のまま
● 体調が揺らぎやすい
こうした季節特有の不安定さを受け入れながら、次の季節へ準備をする期間でした。
🧘♂️ 古い民間暦での心得──「急がず、無理をしない」
昔の人は「土用は急がず、争わず、焦らず」と言い伝えました。
理由はシンプルで、この時期は自然の気が安定せず、健康・作物・家仕事に影響が出やすいと考えられていたためです。
【冬の土用に避けられたこと】
- 新しい大工仕事(家を建てる、基礎をいじる)
- 長期の旅
- 過労や冷えにつながる無理
これは迷信ではなく、冬場の健康リスクを減らす合理的な暮らしの知恵でした。
【逆に向いていること】
- 体調の立て直し
- 整理整頓・掃除・準備
- 冬の食材を使った滋養のある食事
- 春仕事の計画立案
現代でも“年度変わりの準備期間”と捉えると、とても有効に使える季節です。
🍲 冬の土用と食文化──身体を温める「養生食」
夏の土用の「丑の日」ほど派手な習俗はありませんが、冬の土用にも地域の食文化が見られます。
● 身体を温める食
・根菜(大根、牛蒡、人参)
・味噌・甘酒
・鍋物
・焼き魚
冬は「腎」をいたわる時期ともいわれ、体を冷やさず滋養を補う食が重んじられました。
● 春の気を呼び込む食
・菜の花
・早春の山菜(立春近くになると出回る)
「春の先取り」を体に取り込む感覚は、現代の季節行事ともよく響き合います。
🌤 冬の土用に見られる自然のサイン
冬の土用の間には、七十二候の中でも春を予告する候が見え隠れします。
- 款冬華(ふきのはなさく)
- 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)
- 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)
冬の最中にも、少しずつ春の気配が忍び寄るのがわかります。
冬の土用は、この“二つの季節が重なっている瞬間”を感じ取るための暦でもあったのです。
🌸 立春へ──「暦の新年」を迎える前の静かな準備期間
立春は旧暦では“暦の新年”。
冬の土用は、大掃除のように心身と生活を整えて新しい一年に備える時期でもありました。
現代に置き換えれば──
- 新しい習慣を始める準備
- 持ち物や書類の整理
- 体調の管理
- 春の予定作り
といった「新しい季節を迎えるための助走期間」として捉えるとしっくりきます。
■ まとめ
冬の土用は、単に寒い時期ではなく、
“冬の終わりと春の始まりが重なる、微妙な季節の境目”
です。
無理をせず、静かに整え、春を迎える準備をする。
昔の人が大切にしてきたこの感覚は、現代の暮らしにも十分役立ちます。

