土用というと「夏の土用の丑の日」がよく知られていますが、本来は 立春・立夏・立秋・立冬の前18日間に訪れる“四つの土用” を指します。
この四つの土用には、それぞれ近しい 干支(十二支)との結びつき が語られ、養生・吉凶・民間習俗の指標として用いられてきました。
「五行(木火土金水)」と「十二支」が組み合わさることで、季節の移ろいを読み解く知恵が生まれた──
その文化的背景をまとめてみたいと思います。
目次
■ 1.土用と干支が結びつく理由
四季は五行思想で次のように整理されています。
| 五行 | 四季 |
|---|---|
| 木 | 春 |
| 火 | 夏 |
| 金 | 秋 |
| 水 | 冬 |
| 土 | 各季節の“端境(はざま)” |
「土」はどの季節にも属さず、
季節と季節をつなぐ“調整役” と考えられました。
さらに古代では、
その土用期間の中で、特に相性の良い干支の日を“吉日”として扱う 習俗が生まれました。
■ 2.四つの土用と十二支の対応
土用の中でとくに重視される干支(諸説あり)は次の組み合わせです。
| 土用 | 結びつく干支 | 理由・背景 |
|---|---|---|
| 冬の土用(立春前) | 未(ひつじ) | 「冬=水」「土=土」。水剋火の理論から、火気を補う“未”が調整役とされた説 |
| 春の土用(立夏前) | 辰・巳 | 水と火の気が交わる時期で、方位神・雑節の吉凶判断に用いられた |
| 夏の土用(立秋前) | 丑(うし) | “丑=土の蔵”とされ、土気が極まる。養生・食文化として定着 |
| 秋の土用(立冬前) | 戌(いぬ) | 乾燥(燥=金)を鎮め、冬の水気へ橋渡しする象徴として扱われた |
とくに 夏の土用と丑の日 は非常に強い結びつきがあり、日本では “うなぎ” を中心とした食文化として広く定着しました。
一方で 冬土用の未の日 は地域性の強い習俗で、
古い暦注・占い系文献に多く登場します(具体例は次節へ)。
■ 3.日本と中国では意味が異なる
干支と季節の関係は 中国(中原) を起源としますが、
日本では土用の気候・農事・体調変化に合わせて “読み替え” が進んだ 可能性が高いと考えられます。
● 中国
- 風水・陰陽五行の理論で干支を季節に組み合わせる
- 土旺(どおう)と呼ばれる“土の強まる日”を選ぶ
- 暦術・方位術の色が強い
● 日本
- 季節の実感や気候風土に合わせて“意味が拡張”
- たとえば
→ 夏の丑の日=食養生(うなぎ・“う”の付く食)へと転化
→ 冬の未の日=農作業・養生の目安として民間に伝承 - 暦術より 生活文化 として根づく
この「読み替え文化」は、七十二候が日本独自に変化した過程とも共通しています。
■ 4.文献に見える「土用×干支」の記録
土用と干支の組み合わせは、主に以下のような文献に多く登場します。
- 『暦便覧』(江戸時代)
- 方位学・陰陽道系の書(『万宝全書』『運勢鑑』『八宅明鏡』など)
- 民間の“養生俗”に関する記録
これらの書では、
「土旺の日を避ける(または活かす)」
「農作業や移動を控える」
などの知恵が散見されます。
夏土用=丑
冬土用=未
という説も、その流れの一つです。
■ 5.四つの土用にみられる生活文化
干支と結びついた土用は、生活の中でさまざまな形で息づきました。
● 夏の土用(丑の日)
- “う”の付く食で滋養
- 梅干し・うどん・瓜などの食文化
- 土用干し(衣類・書籍・梅など)
● 冬の土用(未の日)
- 寒さの極みに備えた“内臓の養生日”
- 味噌・漬物・保存食づくりに適するとされる
- 農具の手入れ・神棚替えなど“年越しの準備”
● 春の土用
- 畑の手入れを始める前の調整
- 山菜採りや種まきの始まりを告げる日として扱われる地方も
● 秋の土用
- 収穫後の整理
- 冬支度(囲炉裏・薪・冬野菜の仕分け)
干支は単なる記号ではなく、
季節のリズムを読み取る“補助線” として機能していたと言えます。
■ 6.まとめ
四つの土用は、季節と季節の“継ぎ目”のような時間です。
そこに干支が絡むことで、古代人は 自然の流れをより繊細に感じ取り、生活に役立ててきました。
- 夏の丑
- 冬の未
- 春の辰・巳
- 秋の戌
これらは迷信ではなく、自然観と生活文化の知恵が合わさった 季節を読むための道具 でした。
現代の私たちにとっても、
「休むべき時に休む」
「整えるべき時に整える」
という季節感を取り戻すヒントになるのではないでしょうか。





