春の土用(立夏前の18日間)は、
暦の上では「春の終わり」に置かれています。
けれど、暮らしの目線で見れば――
春の土用は、春の終わりというよりも、
夏の始まり(農の始動)に向けた準備期間
としての色合いが濃い雑節です。
なぜなら、立夏を越えると、季節は一気に「田」の世界へ入っていきます。
苗が育ち、田に水が入る。
代かきの音が響き、田植えが始まる。
春土用とは、その直前に置かれた
土と水の段取りを整える時間
だったのではないか。
そう考えると、土用という言葉が急に、生々しい現実味を帯びてきます。
目次
春の土用は「土が主役になる」季節の境目
春の終盤。
山は芽吹き、緑が深まっていく。
同時に、地面も変わっていきます。
- 霜柱が消える
- 土が湿り気を帯びる
- 匂いが立つ
- 地面が“やわらかくなる”
冬の地面は、硬く、閉じています。
でも春の土用のころになると、土はまるで
生き物みたいに、息をし始める
そんなふうに感じられる。
この「土が変わる」という感覚は、
都市の暮らしだと気づきにくいのですが、田畑のある場所でははっきり見えるはずです。
春の土用――
それは、土が夏へ向けて準備を始める期間です。
田植えは「植える」前のほうが長い
田植えというと、苗を植える日が主役に見えます。
でも実際は、植える前の準備のほうがずっと長い。
- 田を整える
- 水を引く
- 土を起こす
- 均す
- 柔らかくする
つまり田植えは、「苗の作業」というより、
土の状態を、田植え可能な土に変える作業
です。
そしてその準備の最終盤が、暦の上では「立夏前」に重なります。
春の土用が「農の暦」として意味を持つのは、ここです。
水を入れるという大事業
田んぼの季節を決定づけるのは、水です。
水が入ると、景色が変わる。
田が「鏡」になる。
空を映す。
雲を映す。
あれはただの風景ではなく、
農が始まった合図
なんですよね。
そして水を入れるには、段取りがあります。
- 水路の点検
- 用水の順番
- 田の畦の補修
- 水漏れの確認
農村の暮らしには、今も昔も
共同体の時間割
が存在します。
この時間割と、暦が結びつかないはずがありません。
春の土用は、まさに
「水を入れる季節が来る」
「その前に整えるべきことがある」
ということを知らせる節目だったのでしょう。
春の土用の“土”は、労働そのものに直結していた
土用という言葉が、どこか観念的に聞こえるのは、
今の暮らしが土と距離を置いたからかもしれません。
でも農の世界にとって「土」は
- 触れるもの
- 掘るもの
- 乾かすもの
- 濡らすもの
- 均すもの
- 守るもの
です。
つまり土用という節目は、
体を使う時期のスイッチ
でもあった。
春の土用は、冬のように「静かに整える」のではなく、
夏へ向けて“動き出すための整え”
なのです。
同じ土用でも、季節によって性格が違う。
その違いがよく見えるのが春土用です。
田植え前夜――世界が「準備音」に満ちる頃
春の土用のころ、田のある地域では空気が変わります。
人の動きが増える。
- トラクターの音
- 水路を見回る足音
- 田を均す作業
- 苗の世話
春の終わりは、どこか寂しさを含む季節ですが、
農の暦では逆です。
春の終わりは、
一年が動き出す始まり
です。
だから春土用は、「春を惜しむ期間」ではなく、
夏の大仕事を迎えるための“整地の時間”
として、暮らしの中に刻まれてきた。
そう考えたほうが、自然です。
「土を触るな」は迷信か、それとも暦の知恵か
土用には「土を動かすな」という言い伝えがあります。
これをそのまま信じるかどうかは別として、
この俗信が生まれた背景を“暦の知恵”として読むことはできます。
季節の変わり目は、天候が揺れます。
- 雨が増える
- 気温差が大きい
- 地面の状態が読めない
- 作物や苗が傷みやすい
つまり春土用は、
土が変化しやすい時期
でもある。
だからこそ、土に手を入れるなら
「慎重に」
「段取りよく」
「焦らずに」
という戒めとして残ったのかもしれません。
土用は、ただの暦の区切りではなく、
暮らしの呼吸を整える“言葉の柵”でもあったのでしょう。
まとめ:春の土用は「土を夏へ渡す」18日間
春の土用とは、立夏前の18日間。
暦の上で春が終わり、夏へ入る直前の期間です。
けれど農の暮らしにとっては、
- 田を整える
- 水の準備をする
- 苗を守る
という一連の流れが本格化する、
田植え前夜のカウントダウン
でもありました。
春土用――
それは「春の名残」ではなく、
土が夏の仕事を始める前の時間
だったのです。
ひとこと
春の土用は、土と水の準備の時間でした。
では、自然の側はどうでしょう。
春の土用の空は、風は、匂いは、
どんなふうに「夏の入口」を知らせてくるのか。
春の土用を 空の現象から深堀りし、
黄砂・春嵐・雷など――
季節が切り替わる“サイン”を追ってみたいと思います。


春の土用の深堀記事はほかにもあります。



