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乃東生(なつかれくさしょうず)|冬至に芽吹く夏枯草の不思議

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❄ 冬至・初候

乃東生(なつかれくさしょうず)|冬至に芽吹く夏枯草の不思議

冬至は一年で最も日が短く、
光が弱まり、自然が深い眠りに入る季節です。

その最初の候「乃東生(なつかれくさしょうず)」は、
夏に枯れる草――ウツボグサ(靫草)が
ひそやかに芽を動かしはじめる時期を表しています。

冬の底にある“静かな芽吹き”を捉えたこの候は、
季節の観察眼の鋭さと、自然への敬意が感じられる
非常に美しい言葉です。


■ 中国の暦における「乃東」

七十二候の原型が成立した中国中原では、
ウツボグサは「乃東(だいとう)」と呼ばれ、
薬草として古くから利用されていました。

夏に紫の穂をつけ、
その後茶色く枯れていくため「夏枯草(かごそう)」とも呼ばれ、
暑さの中で力を使い果たす草として知られていました。

しかし、冬至のころ、
地中ではすでに“再生”の準備を始めます。

古代の人々はその芽吹きを
四季の転換点として捉え、
光の弱まりと同時に生命が静かに動き出す
その不思議を暦に残したのです。


■ 日本でのウツボグサ ― 身近な薬草としての歴史

日本でもウツボグサは古くから自生し、
夏には紫色の穂が野に揺れ、
“夏の草花”の一つとして親しまれてきました。

薬草としては解熱・炎症を抑える作用があり、
漢方の「夏枯草(かこそう)」として現在も処方に使われています。

冬至の時期に芽吹くことは、
日本でも重要な季節の印象として受け止められ、
冬至の候「乃東生」がほぼそのまま
日本の季節感として定着しました。


■ 冬至の“光の底”で芽生える生命

乃東生を象徴するのは、やはり
冬の底での芽吹きという現象です。

日の光が一年で最も弱まり、
陰が極まる冬至のころに、
自然は一見すべてが眠っているように見えます。

しかし雪や凍てつく冷気の下で、
ウツボグサはすでに芽を伸ばし始めています。

この“静かな始まり”こそが、
古代人の心に強い感動を与えたのでしょう。

季節は止まることなく巡り、
光は弱まりながらも確実に春へ向かっている――
乃東生という候には、
冬至という季節の核心が表現されています。


■ 夏枯草という“対の関係”

ウツボグサの別名である「夏枯草」は、
夏至のころに枯れていく草。

つまり、
冬至で芽生え、夏至で枯れる
という“対の一年”を持つ植物です。

光が最も弱い時に芽吹き、
光が最も強い時に枯れるという
自然のリズムは非常に象徴的で、
七十二候の中でも特に
詩的な意味をもつ植物と言えます。

古代中国では、
この草が陰陽の転換を示すものとして
薬用だけでなく象徴的にも扱われました。


■ 現代における乃東生の季節感

現代ではウツボグサは
山野や公園で比較的身近に見られる草ですが、
冬至に芽生えることを意識する人は少ないかもしれません。

しかし、冬の散歩道や土手をよく見ると、
枯れ葉の下から小さな芽が顔を出していることがあります。
季節は表面の静けさとは裏腹に、
内部では次の季節の準備が着実に進んでいる――
その実感をもたらしてくれるのが
乃東生という季節語です。

冬至は“陰極まって陽生ず”と言われる通り、
一年の光の転換点。

乃東生は、
その転換を象徴する
「生命の小さな灯り」のような存在なのです。

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