🌿【夏至・初候】乃東枯(なつくさかるる)
―― 夏至の入口に枯れゆく草、陰から陽へ季節が転ずるとき
夏至は二十四節気の第十節気。太陽黄経90°、一年で最も昼が長い頃にあたります。
その最初の候が 「乃東枯(なつくさかるる)」。読みは「なつくさ かるる」、乃東とは夏枯草(かごそう)、ウツボグサの古名です。
最も陽の力が満ちる時期であるにもかかわらず、名前にあるのは「枯れる」という現象。
季節の真ん中で、陰陽の転換点を示すように、地面近くの小さな生命が静かに色を失っていきます。
草木が盛んに伸びる夏に、ひとつの草は枯れ、やがて秋に再び芽を吹く――自然の循環の象徴として、昔の人は乃東枯に深い意味を見出しました。
目次
🌞 自然 ― 太陽が極み、影が深くなる頃
夏至は昼の長さがピークとなる節気です。
陽光は真上から降り注ぎ、地面の影は一年で最も小さくなります。
水辺は光を跳ね返し、草むらからは蒸気のような湿気が立ちのぼり、森は濃い緑を帯びて熱を蓄え始めます。
しかしその強い陽射しのなかで、ウツボグサは先に花期を終え、色褪せ、穂が黒ずみ、立ち枯れを始めます。
目立たない変化ですが、夏至の候を象徴する静かな出来事です。
暑さの始まりと同時に訪れる「最初の衰え」を見つめると、季節は一方向に進むのではなく、陰と陽の振り子のように揺れながら巡っていることがわかります。
【夏至】(げし)
昼の長さが最も長くなる
月: 五月中 太陽黄経: 90°

初候 乃東枯
(なつかれくさかるる)
夏枯草が枯れる
🏠 暮らし ― 夏に向けた身体づくり
夏至の頃は体に熱がこもりやすく、食欲が落ちやすい時期です。
古くから、山菜・豆類・梅など、身体の余熱を調える食材が重視されました。
湿気の増える梅雨にも近く、台所では保存方法の工夫も必要になってきます。
・豆ごはんや煮豆
・紫蘇やみょうがなど香りのある薬味
・青梅の砂糖漬けや梅酢
こうした伝統的な食卓は、身体にこもる熱を和らげ、疲れを抑え、夏の長期戦にそなえる知恵として受け継がれてきました。
🍃 旬 ― いま味わいたい季節の恵み
魚ではアユが旬を迎えます。清流の香りをまとった若鮎は、塩焼きにして初夏の香りをそのまま味わえる食材。
野菜では枝豆・ズッキーニ・きゅうりが走り。
果物ではさくらんぼ、びわ、西瓜の初物も店先を彩り始めます。
※ふるさと納税・季節の果物記事と連動予定ポイント
→ 走り~初夏の果実枠 と相性が良い時期です。
📚 文化 ― 乃東枯が語る季節観
乃東枯は「枯れる」現象から季節を知る稀な候です。
盛夏に向かう前、あえて衰えから季節の節目を知る――ここに日本的感性が宿ります。
俳句の季語にも「夏枯草」「乃東枯」があります。
華やかな花の季節から、静かな成熟へ移る時間帯。
夏至は暑さの頂点ではなく、ここからは陰が伸び始める折り返し点でもあります。
日の長さは頂点に達し、そこから少しずつ夜が戻る。
自然は満ちた瞬間に、静かに次の季節へ向けて歩み出します。
乃東枯は、夏至のはじまりと終わりをつなぐ「境目の美学」 なのです。
💬 ひとこと
強い日差しと影の対比が印象を深くする季節。
草の枯れゆく姿に立ち止まれば、季節の流れの奥行きが静かに立ち上がります。
華やぎの裏にある、確かな循環――夏至の候は心を落ち着けて眺めたい時間です。
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