🌾 【芒種・末候】梅子黄(うめのみきばむ)― 梅雨の底に、果実が色づくころ ―
芒種は、二十四節気の第9節気。稲や麦など「芒(のぎ)」のある穀物の種をまく頃を指します。
その末候が 「梅子黄(うめのみきばむ)」。
読み方は うめのみきばむ、意味は 梅の実が黄色く熟し始める頃。
雨脚の強さが増し、湿り気を帯びた空気が街と山を包み込みます。
空には低く厚い雲が垂れ、蒸し暑さが日に日に増す季節。
その梅雨のただ中で、ひっそりと、しかし確かな季節の変化として、
梅の実は緑から黄金色へと移り変わっていきます。
目次
🍋 自然 ― 梅雨空の下で熟す、梅の実
梅の木は、春先に青みのある実を膨らませ、
梅雨の終盤に差しかかる頃になると一斉に色を変えます。
青い実は硬く引き締まり、爽やかな香りを持っていますが、
黄に染まり始めると柔らかさが増し、甘い香りを放つようになります。
古来、梅は 薬木 として重宝され、
実だけでなく枝・花・樹皮に至るまで用途がありました。
とりわけ熟した実を干した 「烏梅(うばい)」 は
解熱や喉の薬として使われ、『万葉集』にもその効能が詠まれています。
梅が熟するこの時期は、
人の体も暑さへ向けての準備が求められる頃。
湿度の高さにより食欲が落ちたり、体がだるくなる季節でもあります。
だからこそ、梅が育む酸味や香りは、季節に寄り添う知恵として
生活の中に息づいてきました。
【芒種】(ぼうしゅ) 月: 五月節 太陽黄経: 75°
稲や麦などの(芒のある)穀物を植える

末候梅木黄
(うめのみきばむ)
梅の実が黄ばんで熟す
🏠 暮らし ― 一年の味が仕上がる、梅仕事の季節
「梅子黄」は、梅仕事の最盛期です。
青梅は梅酒や梅シロップに適し、黄熟梅は梅干し向き。
各家庭で桶や瓶が並び、台所には甘酸っぱい香りが満ちていく——
そんな光景は今も昔も変わらぬ初夏の風物詩です。
梅は保存がきく加工品として、
かつては一年を乗り切るための大切な食料でもありました。
塩と時間が作り出す梅干しは、防腐性と整腸作用をもち、
暑気あたりを防ぐ「夏の薬」として親しまれてきました。
暮らしに息づく梅の知恵
- 梅酢 … 食中毒予防として調味に使用
- 梅干し … 病除け・厄除けのお守りとして旅人が携帯
- 梅干しおにぎり … 保存食文化の象徴
生活の中で季節を迎え入れる——
「梅子黄」は、日本の台所の力強さを思い起こさせる候です。
🍽 旬 ― 初夏の力を蓄える味覚
梅の熟すこの季節には、
初夏の滋味が揃い始めます。
- 新じゃが・新玉ねぎ・ズッキーニ
- 青じそ・みょうが・大葉の香味野菜
- あじ・いさき・かつおなど、初夏の海の魚
高い湿度と体調変化の季節に、
香りや酸味が食欲を支え、体の調子を整えます。
果物では、梅に続いて
びわ・さくらんぼ・すもも が出回り始め、
夏への移ろいを彩ります。


📚 文化 ― 季節を知らせる果実と雨の詩情
梅と雨の関係は深く、
六朝時代の中国には「梅雨(ばいう)」という言葉がありました。
日本には古くから 「五月雨(さみだれ)」 の呼び名があり、
俳句の季語としても多く詠まれています。
- 「梅雨晴れ」「梅雨明け」「青梅雨」
- 俳句では「梅」「梅雨」「梅雨明け」が夏の季語
この候は、雨音と香り、
静けさの中にある成熟の美を味わう季節といえます。
💬 ひとこと
重く垂れる雲、雨粒の跳ねる音、
時折差す光が葉にきらめく瞬間——
梅の香りは、それらをひとつに結びつける季節の記憶。
湿り気の中にじんわり感じる温もりは、
夏の気配そのものです。
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