🔶 【芒種・次候】腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)
芒種(ぼうしゅ)は、太陽黄経75度。
毎年6月6日ごろにあたり、令和8年(2026年)は6月6日20時23分です。
稲や麦など「芒(のぎ)」のある穀物を植え付ける時期という意味を持ち、恵みの雨を待ちながら田んぼに活気が満ちてくる頃です。
そして次候は 「腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)」。
湿り気を帯びた草むらや河川沿いに、夜ごと蛍の光がゆれる季節――古人が自然の神秘を詩的に表現した名前です。
目次
✨ 自然 ― 初夏の闇に灯る、小さな生命の光
梅雨入り間近、空気は重く湿り、夜の匂いが変わる季節。
昼間は青田風が吹き、夕刻にはかすかな土の匂いが立ち上ります。
雨上がりの夜、川面の水音に耳を澄ませると、ふいに暗闇を横切る小さな光。
それが、蛍の季節の合図です。
古い中国の自然観では、腐った草(堆積した草の層・藻・朽ち葉)が蛍へと変化すると考えられていました。
もちろん現代の科学では蛍は昆虫であり、成虫の寿命は2週間ほどですが、
光の生まれる不思議さと湿地の命の循環を見つめた人々の感性には、強い共感があります。
昔の人は、蛍の光に「魂の再生」「命のめぐり」を重ね、
祈りや恋物語の象徴として詠んできました。
芒種の頃の蛍は、まさに 生命のきらめきそのもの といえるでしょう。
【芒種】(ぼうしゅ) 月: 五月節 太陽黄経: 75°
稲や麦などの(芒のある)穀物を植える

次候
腐草為蛍
(くされたるくさほたるとなる)
腐った草が蒸れ蛍になる
🏠 暮らし ― 夜を楽しむ季節の時間
この時期の夜の散歩は、格別です。
街灯の少ない川沿いの道には、初夏特有の湿った風が流れ、
夕暮れから20時くらいの時間帯は蛍が最も活発に飛ぶ頃。
しずかな暗闇にひとつ、またひとつ…
手を伸ばせば届きそうな距離を、ゆっくりと軌跡を描きながら光が漂う。
蛍の光がよく見えるのは――
- 風の弱い夜
- 蒸し暑く湿度の高い日
- 雨上がり
- 月明かりの少ない夜
静かに眺める時間は、忙しい日常から解放される大切なひととき。
自然に身をゆだねる感覚が、季節を深く感じさせてくれます。
🍃 旬 ― みずみずしい初夏の味
芒種の頃は、田植えの労をねぎらうように、初夏の味覚が充実してきます。
▪️ 野菜
- 新じゃが、新玉ねぎ、新にんにく
- そら豆、枝豆、スナップえんどう
- きゅうり、トマトなど夏野菜が出はじめる季節
▪️ 魚
- 若鮎(あゆ)
- 岩牡蠣(いわがき)
川の恵みと山の恵みが重なり、身体をすっと軽くしてくれる味が揃います。


📚 文化 ― 光りはかなく、ゆえに美しい
日本の文学では、蛍は古くから“儚さと美”を象徴する存在でした。
平安時代の歌物語 『伊勢物語』 や 『源氏物語』 にも登場し、
恋心や想いの炎に重ねて詠まれています。
俳句では
- 「蛍火(ほたるび)」
- 「蛍狩(ほたるがり)」
- 「蛍舟(ほたるぶね)」
など、夏の季語として愛されてきました。
芒種の闇にゆれる光は、千年の時を超えて私たちの心を照らし続けています。
💬 ひとこと
一瞬で消えてしまう小さな光に、なぜこれほど心を奪われるのでしょう。
形も見えない闇の中で、ただ淡い光だけが漂う――
その儚さこそが、初夏の美しさなのだと思います。
蛍の光が心を照らす夜、
季節の静寂と、自然の鼓動を感じてみませんか。
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