乃東生(なつかれくさしょうず)— 夏枯草(かこそう)が芽を出す —
🌿 自然 ― 冬枯れの大地に、ひそやかな芽吹き
冬至を迎え、陽の光が一年で最も弱まる頃。
野山は霜に覆われ、草木は眠りについたように静まり返ります。
そんな中、地を割るようにして芽吹く小さな草があります――それが「夏枯草(かこそう)」です。
名の通り、夏になると枯れてしまうこの草は、冬至の頃に芽を出すことから「乃東(だいとう)」とも呼ばれました。
学名ではウツボグサ(靭草)といい、夏に紫色の花穂をつけるシソ科の多年草です。
冬の寒気の中で、他の植物が枯れ落ちていく時期に、新たな命が動き出す。
それは、冬至という「再生の節気」を象徴する自然の姿でもあります。
大地の下では、春を待つ芽が静かに力を蓄えているのです。
【冬至】 (とうじ)
昼が一年中で一番短くなる
月:十一月中 太陽黄経:270°

初候 乃東生
(なつかれくさしょうず)
夏枯草が芽を出す
🏡 暮らし ― 冬籠りと芽吹きの予感
冬至を過ぎると、昼の時間はわずかに伸び始めます。
人々の暮らしは寒さをしのぐ工夫に満ちていますが、この頃から新年の準備も始まり、心の中には小さな「春の兆し」が芽生えます。
囲炉裏やこたつのそばで、干し柿や蜜柑を手にするひととき。
家々では味噌や漬物の樽の点検をしながら、保存食を活かした冬の献立を整えます。
農村では、麦の芽が雪の下で育ち始めることから、翌年の豊作を占う「麦踏み」の準備が進みます。
冬枯れの中にも、生命が絶えず循環していることを実感できる時期です。
🍊 旬 ― 冬の実りと保存の知恵
この時期の食卓は、まさに“冬の貯え”の季節。
旬の野菜は大根、白菜、長ねぎ、かぶ、ほうれん草など。
寒さで甘みを増した野菜は、煮物や鍋に欠かせません。
果物では温州みかんが最盛期。
「こたつでみかん」は、日本の冬の原風景ともいえます。
また、柚子やキンカンなど、香り高い柑橘類も多く出回ります。
魚介ではタラやブリ、アンコウ、カキが脂をのせ、冬の海の恵みが豊富に揃います。
保存を兼ねた干物や塩漬け、味噌漬けなども作られ、冬を越える知恵が受け継がれています。


📖 文化 ― 冬に芽吹く“希望の象徴”
乃東生の「乃」は“始まり”を、「生」は“生命の息吹”を表します。
つまり、この候は“冬にあって生命が再び動き出す”ことを象徴する言葉です。
古代中国では、陰陽の転換点を示す冬至を「陽気の復活」と捉え、この小さな芽吹きを吉兆と見なしました。
日本でも、冬至を境に運が上向く「一陽来復」の考えが広まり、家の柱に御札を貼って福を呼び込む風習が生まれました。
文学や俳句でも「冬芽(ふゆめ)」は再生や希望の象徴。
枯れた野の中に小さな緑を見つけることで、人は季節の循環を感じ、来る春を信じて暮らしてきました。
🗓 暦 ― 太陽黄経270度、再生の起点
暦の上では、冬至をもって「陽の気」が再び生まれ始めるとされます。
太陽黄経270度を境に、太陽は北半球で少しずつ高く昇り、昼の時間が伸びていきます。
寒さの厳しさは増しますが、自然界は確実に“上昇”へと転じています。
この時期の寒さを受けてこそ、春の芽吹きが力強くなる――
暦の上でも、冬至から小寒、大寒へと季節が進む今、人もまた「内に力を蓄える」時期を迎えているのです。
💬 ひとこと
冬至の初候「乃東生」は、静かな大地の中にある“希望の種”を見つめる季節。
寒さに閉ざされても、命は確かに息づき、やがて芽吹く。
その姿に、自然のたくましさと、人の生きる力が重なります。
冬の底にあって、春への一歩を感じ取る。
乃東生――それは、光の再生を告げる小さな合図です。
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