🌱 穀雨・初候 葭始生(あしはじめてしょうず)
目次
🌤 自然 ― 水辺に葦の若芽が顔を出すころ
穀雨の初候は「葭始生(あしはじめてしょうず)」。
“葦(あし/よし)が芽を吹きはじめる”という意味で、令和8年(2026年)は4月19日ごろ、太陽黄経およそ30度。
春の雨に潤された水辺や田の畦に、やわらかな緑が顔をのぞかせる時期です。
葦は、日本の湿地や湖沼に広く自生する多年草。
冬の間に枯れた茎の根元から新芽が伸び、風に揺れながら光を受けて育ち始めます。
古来、葦は「悪し」に通じるとして“よし(善し)”とも呼ばれ、再生と繁栄の象徴として大切にされてきました。
水とともに生きるこの植物が芽吹くと、春は静かに幕を閉じ、夏の息づかいが聞こえはじめます。
【穀雨】 (こくう)
穀物をうるおす春雨が降る
月: 三月中 太陽黄経: 30°

初候 葭始生
(あしはじめてしょうず)
葦が芽を吹き始める
🏠 暮らし ― 田の水張りと、春のしめくくり
この時期、農村では田に水を引き、代かき(しろかき)が始まります。
「葭始生」は、稲作の準備が本格化する合図でもありました。
雨がやわらかく大地を潤し、気温が安定してくると、農家では苗代づくりや種籾の準備が進められます。
家庭では、雨を“恵み”として感じる頃。
菜園では夏野菜の苗を植えたり、花壇にマリーゴールドや朝顔の種を蒔いたりと、季節の手仕事が楽しい時期です。
また、春の名残を惜しみながら衣替えの準備を始める頃でもあります。
桜が散り、空気が少し湿りを帯びてくる――
その変化を肌で感じながら、生活のリズムを夏へと整えていきます。
🍲 旬 ― 若芽と新緑、いのちの味
葭が芽吹くころ、野や山ではさまざまな若芽が勢ぞろいします。
わらび、ぜんまい、こごみ、うど、ふき――
春の山菜が最もおいしい時期です。
特に、たけのこは穀雨を代表する旬の味。
木の芽や若布と合わせた若竹煮、筍ごはんは季節の定番。
海の幸では、桜鯛、あさり、ホタルイカ、しらすなどが盛り。
春の恵みと初夏の走りが重なり、“香りと旨味の共演”が食卓を彩ります。
雨の日には、筍の天ぷらやふきの煮物をゆっくり味わうのも一興です。


📚 文化 ― 葦に見る再生と調和の象徴
葦は、古くから日本文化に深く根づいた植物です。
『古事記』では国土創生の神話に「葦原中国(あしはらのなかつくに)」という言葉があり、人の住む世界そのものが“葦の生い茂る土地”として表現されています。
生命の源であり、再生の象徴でもある葦は、風にそよぎながらも折れずに立ち続ける強さを持つ植物。
その姿は、柔軟さとしなやかさを重んじる日本人の美意識に重なります。
また、葦の穂は楽器「篳篥(ひちりき)」のリードとしても使われ、古代の祭祀や雅楽の音に欠かせない素材でもありました。
自然と文化がひとつに響く――
それが葦が芽吹くこの候の美しさです。
🗓 暦 ― 太陽黄経30°、春の終わりと夏の予感
葭始生のころ、春の陽気は安定し、日中の気温は20度近くまで上がります。
春の終わりを感じつつも、空気は軽やかで過ごしやすい。
この季節を境に、南風が吹きはじめ、暦の上では夏の気が入り始めます。
穀雨は春の総仕上げ――そして、立夏への序章です。
💬 ひとこと
雨のあとの水辺に、やわらかな葦の芽が顔を出す。
その姿に、静かな生命の力を感じます。
風にそよぎ、陽にきらめきながら、また新しい季節が始まる。
葭始生――それは、春の締めくくりに訪れる“命の再生”の景です。
次の七十二候… 穀雨・次候

ひとつ前の七十二候… 清明・末候
