熊蟄穴 (くまあなにこもる)熊が冬眠のために穴に隠れる
🐻 自然 ― 熊が冬ごもりに入り、森が静まるころ
大雪の次候「熊蟄穴(くまあなにこもる)」は、熊が冬眠のために巣穴に入る時期を表します。
太陽黄経はおよそ260度、12月12日から15日ごろ。
寒さがいよいよ厳しさを増し、山も川も凍りつくような季節です。
森の動物たちは冬の寒さを避け、熊をはじめ、リスやカエル、蛇なども地中や木の根元へと身を潜めます。
冬眠とは、ただの休息ではなく、命を守るための知恵。自然界に流れるリズムに身を委ねる行為です。
空気は乾き、空は高く、朝晩は氷点下に近づきます。
山間では雪が積もり始め、森の音が吸い込まれるように静まる。
この「音の消える季節」にこそ、冬の深さが感じられます。
【大雪】 (たいせつ)
雪がいよいよ降りつもってくる
月:十一月節 太陽黄経:255°

初候 熊蟄穴
(くまあなにこもる)
熊が冬眠のために穴に隠れる
🏠 暮らし ― 暮れゆく年と、心の冬ごもり
熊が冬眠に入るように、人の暮らしもまた“こもる”季節に入ります。
外での活動が減り、家の中のぬくもりが中心になる。
囲炉裏やこたつの周りで家族が集い、煮込み料理の香りや湯気が部屋に広がる――そんな日常が心を満たします。
この頃は「師走の真ん中」。
年末行事が次々と始まり、街も人もあわただしさを増します。
大掃除、年賀状、お歳暮、冬至の準備。
冬の寒さの中で、古い年を締めくくる手が次々と動く時期です。
農村では、雪の合間に薪を割り、囲炉裏の炭を整え、干し柿や味噌玉の仕込みを進めます。
冬籠りの支度を整える暮らしは、自然と人が共に季節を生きてきた証といえるでしょう。
🍲 旬 ― 冬の味が濃くなるころ
熊が冬眠に入る頃、寒さは味を育てます。
大根は煮るほどに甘みが増し、白菜は柔らかく、根菜の旨みが鍋の出汁と溶け合う季節。
魚では、脂ののったブリやサバ、カレイ、タラが美味。
とくに「寒ブリ」は、この時期の代名詞ともいえる旬の魚。
富山湾や能登から届く一本釣りの寒ブリは、照り焼きや刺身にしても絶品です。
果物は、りんご、みかん、柚子。
柚子湯に入る風習は冬至に近いこの頃から。
香りで風邪を防ぎ、身を清めるという日本古来の知恵です。
また、冬野菜と塩鮭を煮込む「石狩鍋」や、根菜を甘辛く煮しめる「筑前煮」など、
“体の芯から温まる料理”が、暮らしを支える味となります。


📖 文化 ― 熊の冬眠に見る、自然と人の共鳴
熊の冬眠は、古来より人の暮らしや信仰とも深く結びついてきました。
アイヌの人々は熊を「カムイ(神)」として敬い、冬眠する熊を「大地の神が眠る姿」と見なしました。
自然の循環に従う熊の姿は、人もまた自然の一部であることを思い出させてくれます。
俳句では「熊穴に入る」は冬の季語。
松尾芭蕉も「熊穴に入るや風の声絶えて」と詠み、自然が静まる冬の深まりを描きました。
また、日本の年中行事にも「こもる」文化が残ります。
冬至のゆず湯、正月の籠もり、いずれも“寒さを越えるための祈りと再生”の象徴です。
🗓 暦 ― 太陽黄経260度、冬至を目前に
大雪の次候は、冬至の直前。
昼の時間はさらに短くなり、東京では日の出6時40分、日の入り16時28分前後。
陽の角度は低く、影が長く伸びる季節です。
全国的に寒気が強まり、日本海側では本格的な雪の季節に突入。
太平洋側では乾燥が進み、静電気が気になる頃でもあります。
この頃に吹く風は「寒風(かんぷう)」と呼ばれ、木々を揺らし、枯れ草を巻き上げ、
自然界から“秋の残り香”を完全に消し去っていきます。
💬 ひとこと
熊が穴にこもるように、人もまた心を休める季節。
外の寒さをよそに、家の中に灯る小さな明かりにぬくもりを感じる。
静けさの中に「生きる力」が宿るのが冬の不思議です。
すべてが凍るようでいて、実は春への準備が着々と進んでいる。
熊蟄穴の頃――自然も人も“静けさの中に動く”季節なのです。
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