閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)天地の気が塞がって冬となる
❄ 自然 ― 天地の気が塞がり、冬の静寂が満ちるころ
大雪の初候「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」は、天地の陽気が閉ざされ、冬の冷気が地上を支配する頃を表します。
太陽黄経は255度を少し過ぎ、新暦では12月7日から11日ごろ。
空はどこまでも透明に澄みながらも、その中に張りつめた冷たさが宿ります。
野山の木々はすっかり葉を落とし、霜柱や氷が朝の風景に溶け込む季節。
吐く息は白く、風は頬を刺し、自然界は深い眠りに入ろうとしています。
「閉塞」とは、空の気が閉じて動かなくなるという意味。
陽の力が衰え、陰の気が最も強くなる。
それは衰退ではなく、次に芽吹くための「休息」の時間。
冬は、命がいったん息をひそめることで、次の春への力を静かに蓄えているのです。
【大雪】 (たいせつ)
雪がいよいよ降りつもってくる
月:十一月節 太陽黄経:255°

初候 閉塞成冬
(そらさむくふゆとなる)
天地の気が塞がって冬となる
🏠 暮らし ― ぬくもりを囲み、冬を受け入れる暮らし
この時期、家の中のぬくもりが何よりの幸せとなります。
炭火のぱちぱちという音、味噌汁の湯気、障子越しに射し込む冬の日差し――
すべてが「冬を生きる知恵」の象徴です。
「閉塞成冬」の頃、農村では田畑の仕事が終わり、家の中の仕事が中心となります。
わら細工や竹かご作り、漬物の仕込み、味噌や醤油の仕込みもこの時期に行われます。
都市では、師走の足音が聞こえ始め、年末の支度が始まります。
街にはイルミネーションが灯り、寒空の中にも華やかさが漂い始める。
しかし、その賑わいの裏にあるのは、「一年を締めくくる心の静けさ」。
それこそが、この候にふさわしい日本の冬の情緒です。
🍲 旬 ― 寒気が磨く味、冬の恵みが最盛期へ
空気が澄み、寒さが増すにつれ、食材の味は一段と深まります。
魚では寒ブリ、タラ、カレイが旬を迎え、刺身や煮付け、ぶり大根などにしていただけば、
冬の脂の甘みが体に染み渡ります。
野菜は、大根、白菜、かぶ、ねぎ、春菊。
寒さにあたることで糖度が増し、煮込むほどに柔らかく甘くなる。
「寒の恵み」は、寒さの中でしか育たない自然の贈り物です。
果物では、温州みかんが最盛期を迎えます。
こたつに入り、手を温めながら皮をむく――
その小さな時間が、冬の幸福そのものです。
りんごや柿、ゆずも香り豊かで、鍋物やお菓子にも重宝されます。


📖 文化 ― 静寂を友とする日本の冬の心
「閉塞成冬」という言葉には、音のない世界を感じさせる詩的な響きがあります。
空が閉ざされ、風が止まり、世界がいったん静寂に包まれる――
それは、冬という季節の「無音の美」。
俳句では、「閉塞」は冬の沈黙を象徴する言葉として用いられます。
たとえば「凍る音 聞こえぬほどに 風の止む」。
この一瞬の静けさに、自然と心が呼応します。
また、陰陽五行の思想では、この時期は「水」の気が最も盛んとなる時期。
水は流れず、蓄え、次の生命を育てる。
冬の静けさは、停滞ではなく「再生への準備」なのです。
🗓 暦 ― 太陽黄経255度を越え、冬至を待つ
大雪の初候は、冬至の約2週間前にあたります。
昼の時間は一年で最も短くなり、東京では日の出6時35分、日の入り16時30分前後。
陽の光は斜めに射し、長い影が地面に伸びます。
気象的には本格的な冬型の気圧配置が定着。
北日本では連日の降雪、太平洋側では乾燥が強まり、風邪や火災への注意が必要な季節です。
しかしその冷たさこそが、空気を澄ませ、星々を最も美しく輝かせます。
大雪・初候は、「夜空がいちばん近く感じられる時期」ともいえます。
💬 ひとこと
空が静まり、風が止むと、冬の音は“無音”の中に息づきます。
自然が眠りにつくその瞬間、人もまた、立ち止まり、心を落ち着ける。
「閉塞成冬」は、自然が教えてくれる“静の時間”。
動から静へ、光から影へ――
その移ろいの中に、確かな季節の美が宿っています。
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