橘始黄(たちばなはじめてきばむ)橘の実が黄色くなり始める
🍊 自然 ― 冬の光の中で橘の実が色づくころ
小雪の末候「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」は、橘(たちばな)の実が黄ばみ始める頃をいいます。
太陽黄経はおよそ250度、新暦では12月2日から6日ごろ。
木枯らしの吹く冷たい空気のなか、枝々に残る橘や柚子の実が黄金色に染まり、冬の日差しを受けて輝きます。
橘は古くから日本に自生する常緑の柑橘。
寒さのなかでも葉を落とさず、実を結ぶことから、永遠や再生の象徴として尊ばれてきました。
『古事記』や『日本書紀』にも登場し、橘は“常世の国(とこよのくに)”からもたらされた不老長寿の果実と伝えられます。
冬枯れの中で色づく橘の実は、季節の移ろいを静かに告げる“冬の光の象徴”。
木々の葉が落ちた景色の中で、橘や柚子の黄がひときわあたたかく映える季節です。
【小雪】 (しょうせつ)
寒くなって雨が雪になる
月: 十月中 太陽黄経:240°

末候 橘始黄
(たちばなはじめてきばむ)
橘の実が黄色くなり始める
🏠 暮らし ― 年の瀬を迎える支度のとき
橘始黄の頃になると、暮らしは年末の準備に向かって動き出します。
師走の気配が日々濃くなり、街ではイルミネーションが灯り、家々では大掃除や正月の買い出しが始まります。
北風が強まり、朝晩の冷え込みが厳しくなるため、外出時の防寒具も欠かせません。
こたつの温もりや湯気の立つ鍋料理が、何よりのごちそうと感じられる季節です。
この時期はまた、「柚子湯」や「冬至かぼちゃ」に代表される
冬至の風習が意識され始める頃。
柚子をお風呂に浮かべて無病息災を願う習慣は、まさに橘や柑橘が香りを放つこの候に根ざしています。
干し柿、漬物、味噌、塩鮭など、保存の知恵が冬の暮らしを支え、
家の中には、木の香りと発酵の香りが静かに満ちていきます。
🍢 旬 ― 冬の味覚が整い始めるころ
橘始黄の頃は、冬の味覚が充実してくる時期。
魚では、寒ブリ、タラ、カニ、サバなどが旬を迎え、脂ののった旨みが食卓を豊かにします。
野菜は大根、白菜、ねぎ、春菊、ほうれん草など。
寒さにあたることで甘みを増し、鍋料理や味噌汁が体を芯から温めます。
果物は、みかん、柚子、りんごが中心。
特にみかんは糖度が増して味が濃くなり、こたつで食べる冬の象徴的存在です。
また、「橘始黄」の名の通り、柑橘類の香りが際立つ季節。
ゆずジャムやポン酢、柚子大根など、香りを活かした保存食づくりも楽しまれます。
冬の空気に香る柑橘の匂いは、どこか心を落ち着かせ、季節の深まりを感じさせてくれます。


📖 文化 ― 橘に込められた不老長寿の象徴
橘は、日本の古典や神話に深く根づいた果樹です。
『古事記』には田道間守(たじまもり)が「常世の国」に渡り、不老長寿の果実として橘を持ち帰ったという伝承があり、橘は“生命をつなぐ木”とされてきました。
また、『万葉集』では橘の香りを「冬の花のよう」と詠み、寒さの中にも凛と香る清々しさを讃えています。
平安貴族の庭園にも橘が植えられ、桜と並んで「左近の桜・右近の橘」と呼ばれ、
宮中を象徴する植物として尊ばれました。
その香りと常緑の姿は、冬の寂しさの中に「変わらぬ命」を感じさせる存在です。
🗓 暦 ― 太陽黄経250度、冬至を待つ頃
橘始黄の頃、太陽は黄経250度に達します。
昼の時間はますます短く、東京では日の入りが16時半前後。
朝晩は氷点下に近づく日もあり、冬の到来を実感します。
気象的には、寒冷前線が南下しやすくなり、日本海側では初雪、太平洋側では冷たい北風が吹き荒れます。
暦の上では、次の節気「大雪(たいせつ)」が目前。
小雪と大雪の間は、まさに“冬の本格化の境界線”です。
空は澄み渡り、夜空には冬の星座・オリオン座が輝きます。
寒さの中にも凛とした美しさが漂う――
それが橘始黄の頃の空気です。
💬 ひとこと
橘の実が黄ばみ、冷たい風が吹く。
葉を落とした木々の中で、ひときわ鮮やかに光るその姿は、冬の静けさの中に宿る“生命の象徴”です。
変わらずに葉を保つ常緑の木のように、寒さの中でも希望を忘れずに過ごしたい――
そんな思いを自然が静かに教えてくれる季節です。
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