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暦の折り目 ― 雑節と節目の文化


暦の折り目ー雑節(ざっせつ)と節目(ふしめ)に息づく日本の暦文化


🌿 暦の「折り目」とは

 暦には、太陽の動きを基準とする二十四節気のほかに、季節を示す目印、生活や農作業の感覚をもとにした「雑節(ざっせつ)」があります。

 すなわち、雑節は、節気の間に差し込まれた暮らしの節目ともいうべき重要な位置にあります。節気の節(ふし)にある重要な目印となっているんですね。


 たとえば「土用」「彼岸」「八十八夜」「二百十日」などが代表的です。
 これらは、季節と人の生活をつなぐために設けられた“暦の折り目”といえる存在です。


🌾 暦を補う「雑節」の役割

二十四節気が太陽の運行によって決まるのに対し、雑節は農作業や年中行事の実感から生まれました。

二十四節気は、もともと中国由来の暦ですから日本の気候や季節感とは少しずれがあります。

雑節は日本で生まれた独自の季節の指標で、日本人の季節感や生活文化に合わせて作られています。やはり、季節や気候に左右される農業に関連したものが多いですね。

たとえば、

春の種まきの目安「八十八夜」

茶摘み歌で知られる八十八夜ですが、立春から数えて88日目、5月2日ごろ。「八十八夜の別れ霜」のように、霜の季節の終り、晩霜への注意を告げる節目です。茶摘みのほか、種まきや畑の手入れが行われ、霜の心配がなくなる節目のため、田植え開始の合図でもあるんですね。

台風や大風の警戒時期を示す「二百十日」

立春から数えて210日目、9月1日ごろ。台風の近づく季節ですね。日本の気象にあわせたものです。この時期は、稲の花盛りの頃なので台風に気をつけましょうということですね。「二百二十日」も同じようによく使われますね。

季節の移行期間である「土用」

土用(どよう)は、五行思想(ごぎょうしそう)・五行説(ごぎょうせつ)という古代中国に端を発する自然哲学の思想に由来する雑節。

四季の変化は五行の推移によって起こると考えられたのです。また、方角・色など、あらゆる物に五行が当てはめられています。

土用は年に四回あります。四立(しりゅう、立夏・立秋・立冬・立春)のそれぞれの直前およそ18日間をいいます。四季(春夏秋冬)の移り変わりの期間に当たります。

四季の変化は五行の推移によって起こると考えられたのです。また、方角・色など、あらゆる物に五行が当てはめられています。

なお、現在では土用の入りは支流との関係から、太陽黄経が297°、27°、117°、207°となる日として定義されます。

祖先を供養する「彼岸」

彼岸の中日が春・秋分となったのは、春・秋分を太陽の黄経で決定するようになった天保暦以後のことです。

現在では、春分または秋分の前3日から後3日まで、それぞれ計7日間を指します。この期間に行う仏事を彼岸会(ひがんえ)と呼びます。

最初の日が「彼岸の入り」で、最後の日を「彼岸明け」と呼びます。

俗に、中日に先祖に感謝し、残る6日は、悟りの境地に達するのに必要な6つの徳目「六波羅蜜」を1日に1つずつ修める日とされているのだそうです。

このはかにも、文字通り季節を分ける「節分」梅雨に入る「入梅」七十二候のひとつで、半夏という薬草が生ずるころ・田植えの季節の終りを告げる「半夏生」があります。

また、暦象年表の誕生までは、「社日(しゃにち)」が含まれていました。社日とは春分・秋分にもっとも近い戊の日を指し、春の社日は春社、秋の社日は秋社と呼ばれ、春は五穀豊穣を祈り、秋は収穫への感謝を込めて土地の神を祭るという意味合いを持っています。戦後の暦象採用に当たって除かれたのは、神を祭る行事を避けたということなのでしょうね。

以上のように、

いずれも、人の暮らしの時間軸を補う暦として、二十四節気と並んで重んじられてきました。

このように、暦には「天体の暦(天のリズム)」と「生活の暦(地のリズム)」があり、雑節はその両者をつなぐ“橋”のような存在なのです。


☀️ 「節」と「節目」 ― 言葉の由来

 「節(せつ・ふし)」という言葉は、もともと竹の“ふし”を意味し、連なりの中にある区切りや転換点を表します。

そこから「節気」「節句」「節分」など、季節の“折れ目”を指す言葉に広がりました。

やがて、人生や時間の区切りを表す「節目(ふしめ)」という表現が生まれ、今では暦だけでなく、心の区切りや人生の転機にも使われるようになりました。

つまり、“節目”という言葉は、もともと暦の思想から生まれた日本語の時間感覚なのです。


🌸 暦と暮らしのリズム

 雑節は、単なる古い風習ではなく、季節の変化を的確に捉えた自然暦の知恵です。

 たとえば、
 - 土用の時期は気温や湿度が極まり、体調を崩しやすい
 - 八十八夜は晩霜が終わり、新茶や苗代づくりに最適
 - 彼岸は昼夜が等しく、季節が安定する頃

 いずれも経験的に導き出された知恵であり、現代の生活リズムの中でも活かせる指標です。

 暦の折り目に合わせて心身を整える――
 それは、古代から続く季節とともに生きる感覚を現代に受け継ぐことでもあります。


🪶 暦の文化と日本の感性

 日本の暦文化は、
 自然の変化を“数字”ではなく“情景”として感じ取ることに長けていました。

 「風が変わった」「夜が長くなった」「陽がやわらいだ」――
 そうした感覚が暦の節に刻まれ、俳句や歳時記の言葉にもつながっていきます。

 暦を読み解くことは、単に日付を知るだけでなく、季節を感じ取る言葉の世界を知ることでもあるのです。


📚 参考・出典

  • 国立天文台 暦計算室「雑節」項
  • 日本天文学会監修『天文学辞典』「雑節」「節気」各項
  • 国立国会図書館デジタルコレクション「明治二年暦」
  • 岡田芳朗『日本暦日原典』、新暦旧暦研究会資料


💬 ひとこと

 暦の折り目にこそ、日本人の時間の感覚が宿っています。

 “節目を大切にする”とは、
 季節のリズムを感じ、自然のめぐりに心を合わせること。
 暦を知ることは、ゆるやかに生きるための知の呼吸でもあります。

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