🕊 立春・次候 黄鶯睍睆(うぐいすなく)
目次
🌤 自然 ― 春告鳥の声、野に響くころ
立春の次候は「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」。
“うぐいすが鳴きはじめる”という意味で、春の訪れを告げる候です。
令和8年(2026年)は2月9日ごろ、太陽黄経はおよそ320度。
まだ寒さは残るものの、朝の空気にかすかな柔らかさが漂い、山や庭先から“ホーホケキョ”と春の声が響きはじめます。
うぐいすは、冬の間は低い山や藪の中で過ごしますが、立春を過ぎるころに鳴き声の練習を始めます。
最初はまだたどたどしく、「谷渡り」と呼ばれる短い鳴き方を繰り返しながら、やがて澄んだ声を響かせるようになります。
自然の息吹が音に変わる―― 黄鶯睍睆(こうおうけんかん)は、まさに“春告げの音”の候です。
【立春】 (りっしゅん)
寒さも峠を越え、春の気配が感じられる
月: 正月節 太陽黄経:315°

次候 黄鶯睍睆
(うぐいすなく)
鶯が山里で鳴き始める
🏠 暮らし ― 寒の水と仕込みの季節
水泉動の候は、「寒の水」が尊ばれる時期。
寒中に汲む水は雑菌が少なく清らかで、酒や味噌、醤油、納豆などの仕込みに最も適するとされてきました。
「寒仕込み」という言葉は、この季節の知恵をそのまま表しています。
また、この頃は「寒稽古」「寒中水泳」など、心身を鍛える行事も多く行われます。
厳寒に身を置くことで精神を清め、新しい一年に向けて心を鍛え直す意味が込められています。
寺院では「寒修行」や「寒念仏」などの行も行われ、冬の静寂が人々の信仰心を深める時間となりました。
家庭では、味噌や漬物、甘酒などの仕込みが進み、保存食を整える大切な時期でもあります。
寒さの中で熟成が進むことで、味に深みと安定が生まれる――
自然の理とともに暮らす日本人の知恵が、ここに息づいています。
🏠 暮らし ― 春を聴き、心をほどく
この時期、うぐいすの初鳴きを「春告鳥(はるつげどり)」として喜ぶ風習があります。
鳴き声を耳にすると「今年も春が来た」と実感し、人々は厚着を少しずつ減らし、戸を開けて光と風を通します。
立春大吉の札を張り替える家や、梅の枝を飾って香りを楽しむ家も多く、冬籠りの生活から“動きのある日々”へと切り替わる時期です。
また、寒さでこわばった体をほぐすように、春野菜や山菜を取り入れた料理で体を整える習慣もあります。
目覚めた自然に合わせて、暮らしもまた春のリズムを取り戻します。
🍲 旬 ― 梅香と春野の恵み
梅の花がほころび始め、香りが風にのって漂うころ。
庭先や公園では、菜の花やふきのとう、うどなどの早春の味覚が並びはじめます。
これらのほろ苦い食材は、冬に溜まったものを体の外に出す“春の薬味”。
味噌和えや天ぷら、白和えなど、やさしい調理で香りを楽しみます。
また、鰆(さわら)や白魚など、春告魚(はるつげうお)と呼ばれる魚も出回り、季節の移ろいを舌でも感じる時期です。


📚 文化 ― 鶯の声と文学の春
うぐいすは、古来「春の象徴」として多くの詩歌に詠まれてきました。
『万葉集』には「春されば 鶯鳴きつ」とあり、その声が季節の節目を告げるものとして親しまれてきました。
平安の歌人・紀貫之も“春はあけぼの 鶯の声”と記し、その音色を春の訪れの象徴としています。
俳句では「鶯」「初音」「谷渡り」などが春の季語。
朝の冷気の中に響く声は、希望と静けさをあわせ持つ音として、今も多くの詩人に愛され続けています。
🗓 暦 ― 太陽黄経320°、光が満ち始めるころ
立春・次候は太陽黄経320°前後。
昼の長さがさらに伸び、日差しが力を取り戻していく時期です。
国立天文台の暦要項によれば、令和8年の立春は2月4日。
そこからおよそ5日後、暦上では「春の音が聞こえる」季節に入ります。
寒気が少しずつ緩み、春分へ向かう歩みがはっきりと見えてくるころです。
💬 ひとこと
澄んだ朝の空気の中に、かすかな声が響く。
それは春の知らせであり、心をほどく音。
うぐいすの鳴き声を聞きながら、冬の名残を静かに見送り、春の息を吸い込みたくなる――
そんな穏やかな季節の扉が、ここに開きます。
次の七十二候… 立春・末候

ひとつ前の七十二候… 立春・初候
