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【冬至・末候】雪下出麦(ゆきわたりてむぎいづる)…12月31日頃~

雪下出麦(ゆきわたりてむぎいづる)— 雪の下から、麦が芽吹く —


🌾 自然 ― 雪の大地に芽吹く生命の兆し

 冬至の末候「雪下出麦(ゆきわたりてむぎいづる)」は、雪の下で麦が芽を出し、わずかな陽光を受けて成長を始める頃を意味します。

 新暦ではおおよそ1月1日から5日ごろ。
 太陽黄経はおよそ280度、年が改まり、新しい暦が始まる時期です。
 地表はまだ厚い雪に覆われ、寒さは一年で最も厳しい。それでも、地中では確実に命が動き始めています。

 雪は冷たさの象徴であると同時に、乾燥を防ぐ“天然の布団”。
 その下では麦の芽が凍ることなく、春に備えてゆっくりと力を蓄えています。

 静寂と寒気に包まれた大地の底で、確かな息吹が育まれている――
 それが「雪下出麦」の世界です。

【冬至】 (とうじ)

   昼が一年中で一番短くなる

                       月:十一月中  太陽黄経:270°

末候 雪下出麦	

  (ゆきわたりてむぎいづる)

雪の下で麦が芽を出す

🏡 暮らし ― 新年の始まりと、祈りの季節

 冬至を過ぎ、年が明けると人々の暮らしも新しいサイクルに入ります。
 門松やしめ縄を飾り、初詣で新年の安全と豊穣を祈る。
 凍てついた空気の中にも、どこか清らかで張り詰めた“新年の気”が漂います。

 この頃、農家では麦踏みの準備が始まります。
 冬麦(ふゆむぎ)は寒の間に強く根を張る作物。
 雪が解けた頃に踏み固めることで、春先に倒れにくく、丈夫な穂を実らせるといわれます。
 厳しい冬を乗り越えるための“人と自然の知恵”が、ここにも息づいています。

 家庭では、おせち料理や雑煮を囲み、家族の健康と一年の実りを願うひととき。
 白いご飯や小豆粥、年明けうどん――
 穀物の恵みをいただく食文化が、麦の芽吹きと重なります。

 寒さの中にも確かな再生の兆しが感じられる、そんな希望の季節が、この「雪下出麦」です。


🍊 旬 ― 厳冬の甘み、命を支える食卓

 雪下出麦の頃、冬の味覚は一段と深みを増します。

 野菜では、大根、白菜、かぶ、ほうれん草などが甘さを極め、寒さによって養分を蓄えた「寒野菜」は栄養豊富。
 “雪の下野菜”と呼ばれるものもあり、雪に覆われることで凍らずに旨みが凝縮します。

 魚介では、タラ、ブリ、アンコウ、ズワイガニが旬。
 特に寒ブリや白子(タラの精巣)は、この時期ならではのごちそうです。

 果物では、みかんやりんごが旬を保ち、保存の利く柑橘や干し柿が冬の常備品として活躍します。

 また、小麦・大麦を使った料理――うどん、すいとん、麦粥――も、
 この時期に食べられることが多く、“麦の芽吹きにあやかる”という願いがこめられています。

 寒の中で生まれる滋味は、まさに「命をつなぐ食卓」です。


📖 文化 ― 雪と麦、生命の象徴

 「雪下出麦」という言葉には、古来より“再生”の意味が込められています。
 雪の下で生き続ける麦は、やがて春に青々と芽吹き、秋には実りをもたらす――その循環はまさに“生命の連鎖”。

 古代日本では、麦は五穀のひとつとして重視され、冬至から正月にかけての行事にも深く関わってきました。
 神事や年越しの祭りでは、麦飯や麦粥が供えられ、「春への願い」を象徴する食として信仰されていたのです。

 文学や俳句の世界でも、この候は希望の象徴として詠まれました。
 「雪の下 麦の芽出づる 明日かな」――
 白一色の世界に小さな命の色がのぞく、その瞬間を描いた名句。
 静寂と希望が交わる、日本的な美の頂点といえるでしょう。


🗓 暦 ― 太陽黄経280度、新年とともに芽吹く

 太陽黄経280度。冬至を越えて5日ほど、わずかに陽の光が長くなり始めます。
 とはいえ寒さは厳しく、各地で“真冬日”が続く頃です。

 夜明けの遅さと夕暮れの早さに冬の深さを感じつつも、日差しの角度にはほんの少しの「春の気配」。
 それは自然のリズムが再び動き出した合図です。

 農耕暦では、この候を境に「寒」の時期へ入り、麦や菜種など越冬作物の管理が始まります。
 新しい年とともに、大地もまた次の命の支度を始める――
 そんな時間の流れが感じられる節目です。


💬 ひとこと

 雪の下に、見えない命が息づいている。
 それは、私たちの心の奥にも似ています。

 寒さの中でじっと耐え、やがて訪れる春に向けて静かに力を蓄える。
 見えないところで育まれるものこそ、真に強く、美しいものなのかもしれません。

 雪下出麦――それは、冬の底で芽吹く希望のことばです。

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