麋角解(おおしかのつのおつる)— 大鹿が角を落とす —
🦌 自然 ― 大地が眠りにつき、命がめぐるとき
冬至の次候「麋角解(おおしかのつのおつる)」は、大鹿(おおじか)が古い角を落とす頃を意味します。
新暦ではおおよそ12月27日から31日ごろ。
太陽黄経は275度前後、年の暮れとともに陽気がわずかに戻りはじめ、自然界は“再生への準備”を静かに進めています。
鹿は秋の繁殖期を終え、冬の山に静まり返る頃。
この候に角を落とし、春に向けて新しい角を生やします。
つまり、古きを捨て、新しきを得る――
自然の中の「更新」の象徴ともいえる現象です。
雪に覆われた山中で、一本の角が落ちているのを見つけると、それは冬の厳しさの中にひそむ“命の循環”そのもの。
人の暮らしにもどこか重なる、静かな自然のドラマです。
【冬至】 (とうじ)
昼が一年中で一番短くなる
月:十一月中 太陽黄経:270°

次候 麋角解
(おおしかのつのおつる)
大鹿が角を落とす
🏡 暮らし ― 年の瀬の支度と心の整え
冬至を過ぎ、年の瀬を迎える頃。
人々は新しい年を迎えるための準備に忙しくなります。
家の中では「煤払い(すすはらい)」が行われ、一年の汚れを落とし、神棚や仏壇を清める。
障子を張り替え、床の間に松や竹を飾れば、空気が引き締まり、心にも清々しさが広がります。
台所では、おせち料理や餅つきの準備。
この時期に仕込む「黒豆」「数の子」「昆布巻き」は、すべて新年の健康と幸福を願う象徴です。
年の瀬の忙しさの中にも、
火鉢のぬくもりや家族の笑い声に冬の温もりが漂います。
鹿が古い角を落として新しい命を育てるように、人もまた一年の疲れを手放し、新しい年を迎える準備をする――
それがこの候の心のあり方です。
🍊 旬 ― 厳寒に育つ滋味と冬のごちそう
麋角解の頃は、まさに冬の味覚が充実する時期。
寒さによって甘みを増した野菜や魚が食卓を豊かにします。
大根・白菜・ほうれん草・春菊などは冬の主役。
鍋料理や煮物にすれば、体を芯から温めてくれます。
魚介では、ブリ・タラ・アンコウ・カキ・ズワイガニが旬。
とくに北国では「寒ブリの漬け」「タラちり」「かにすき」など、寒の海の恵みを存分に味わう季節です。
果物では、りんごや温州みかんが美味しさの盛りを迎え、ゆずやだいだいなどの柑橘は、正月飾りやお雑煮の香り付けにも欠かせません。
寒さが厳しいほど、自然の恵みは深みを増す。
それが日本の冬の豊かさを物語っています。


📖 文化 ― 角を落とす鹿、再生を象る
古来より鹿は「神の使い」として崇められてきました。
奈良の春日大社では、鹿が神の御使いとして守られており、その優美な姿は古代から神聖視されてきたのです。
角を落とすという現象は「再生」の象徴。
古いものを手放し、新たな力を得るという意味を持ち、人々はこれを“自然の年越し”のしるしと感じてきました。
俳句や和歌でも、「鹿の角落つ」は冬の季語。
「角落ちて 山静まりぬ 夕の風」――
そんな一句に、冬の終わりと春の兆しを見出す詩情が漂います。
鹿が角を落とすように、私たちもまた、一年の執着をそっと手放し、新しい年へと歩み出す。
この候は、その心の切り替えを促す節目です。
🗓 暦 ― 太陽黄経275度、年の終わりの光
太陽黄経は275度、冬至からおよそ5日前後。
昼はわずかに長くなり始め、西日が少しずつ力を取り戻す頃です。
全国的に冷え込みが厳しく、北国では根雪が定着。
関東以西でも霜や氷が続き、「年の瀬の寒波」がニュースを賑わせる時期です。
この寒さを越えてこそ、春は確実に近づいてくる。
暦のうえでも、冬至を経て“陽の気”が動き出す今、自然と人の時間は、新しい循環を始めています。
💬 ひとこと
山深くで、鹿が角を落とす――その音は聞こえずとも、確かに季節は次の歩みを始めています。
古いものを落とし、新しい芽を育てる。
自然の理(ことわり)に寄り添いながら、私たちもまた一年の終わりに心を整えるとき。
静かな山の鹿のように、穏やかな気持ちで新しい年を迎えたいものです。
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