土脉潤起(つちのしょう うるおいおこる)。
雨水・初候を表す七十二候です。
春の候というと、梅や鶯、花の気配を思い浮かべがちですが、
雨水の最初に来るのは、もっと地味で、もっと本質的なもの――
「土」です。
土。
土がどうなるのか。
何が変わるのか。
この候が言っているのは、ひとことで言うと
凍っていた土が、ゆるむ。
乾いていた土に、水気が戻る。
ということです。
花が咲くのはずっと後。
でも春は、まず「足元」から始まります。
■ 「土脉(どみゃく/つちのしょう)」とは何か
土脉潤起の「土脉(つちのしょう)」は、少し難しい言葉ですが、
意味は案外わかりやすいです。
土の脉(みゃく)=土の中の筋道、つまり水の通り道のこと。
土はただの固まりではなく、
中にすき間があり、空気があり、水が通り、
根が伸びていく場所です。
冬の間、地面が凍ると――
この「通り道」が止まります。
・水が染み込まない
・土が固い
・地面がカチカチ
・霜柱が立つ
つまり、土の中の“流れ”が止まる。
そして雨水。
雪が雨へ変わり始めるころ、土の中で最初の変化が起きます。
その変化を「潤起(うるおいおこる)」と呼んだわけです。
■ 土が「潤う」とは、どういう状態?
ここが今回一番大事なところです。
土が潤うとは、単に「地面が濡れる」ことではありません。
表面に水がたまることでもない。
もっと根っこの話で――
土が水を含める状態に戻る
ということです。
冬の土は、乾いて見えることがあります。
湿っているようでいて、じつは凍っていて水を吸えない。
たとえば冬の朝、庭や畑を歩くと
・土が硬い
・踏むと音が違う
・霜柱でフカフカしている
・でも日中はカチカチに締まる
そんな状態になります。
これは土が「死んでいる」のではなく、
土の働きが停止しているだけ。
雨水を境に、地面はこう変わります。
- 霜柱が立ちにくくなる
- 土が“割れ”ではなく“ほぐれ”になる
- スコップが入りやすくなる
- 黒っぽく、しっとりした色に見えてくる
- 土の匂いが立つ
つまり、土が“水を受け入れられる体”に戻っていく。
それが「潤起」です。
■ 春のサインは「土の匂い」
土脉潤起の季節になると、
ふとしたときに土の匂いがします。
冬の匂いは、空気の匂いです。
でも春の匂いは、地面の匂い。
アスファルトの隙間から、
畑の端から、
道ばたの黒土から――
「土が戻ってきた」感じがする。
それは、人間の側の錯覚ではなく、
土の中で、微生物や水の循環が動き始めている証拠なのかもしれません。
■ 春は上からではなく、下から来る
雨水は、雪が雨へ変わる節気です。
つまり、天から落ちてくるものが
白い固体(雪)から、
透明な液体(雨)へ変わる。
これは「季節が変わった」ことの証明でもありますが、
土脉潤起は、その影響がまず土に届くことを示しています。
雨が染みる。
雪どけ水が流れ込む。
凍っていた通り道が開く。
春は、木の芽に先に届くのではなく、
土の中に先に届く。
七十二候は、その順番を外しません。
■ 土が動けば、全部が動く
土が潤うと、何が起きるか。
当たり前ですが、
- 草が伸びる
- 根が動く
- 虫が出る
- 水が巡る
- 鳥が増える
- 花が咲く
全部、土が起点です。
土脉潤起は、
「春の土台が整う」候とも言えます。
春の入口でこれを置いているのは、
季節の変化の“根っこ”を見ているからなのでしょう。

