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■ 冬の大地の下で起きていること
七十二候・小寒の次候「水泉動(しみず あたたかをふくむ)」は、
「地中の泉(しみず)が、ぬるみを帯びて動き始める」
という自然現象を象徴的に表現した語です。
地表は一年で最も冷え込む頃ですが、
陽光が少しずつ力を取り戻し、
“地下のほうがわずかに早く春を感じ始める” とされています。
実際の気温はまだ厳しい寒さの中ですが、
古人は氷の下で聞こえる微細な水音や、
井戸の水温の変化に気づき、
季節のわずかな揺れを“兆し”として捉えました。
■ 「地中で春が先に動く」──陰陽五行の視点
暦の背景にある陰陽五行思想では、
冬は 「水」 を司り、
万物が静かに力を蓄える時期とされます。
水泉動の“動”は、
その静から動への最初の転換点。
- 水が動く
- 陽気が地中で芽生える
- 季節の底から少しだけ光が差す
という象徴的な意味が含まれているのです。
これは観測というよりも、
「冬至を越えて陽気が少しずつ地中で増える」
という暦思想に基づく読み替えでもあり、
中国・日本のいずれでも同様に理解されてきました。
■ 日本での水の“変化”の捉え方
日本では、水の気配の変化を感じ取る習慣が古くからあります。
- 井戸水の温度が少し柔らぐ
- 川底の流れが微かに速まる
- 湧き水の音が変わる
こうした小さな気づきが、
「春の兆し」を教えてくれると信じられていました。
“凍てつく寒さの裏で季節は静かに進んでいる”
という自然観が、美しい候名の背景にあります。
■ 氷の下の世界──生き物たちの反応
まだ地上は冬のただ中ですが、
生物のなかには「水の動き」に敏感なものがいます。
- 地中の微生物が活動を再開する
- 湧水周辺で苔が色を濃くする
- 川辺で水鳥が動きやすくなる
寒さの底にもかかわらず、
自然界ではすでに春の準備が水面下で始まっています。
“動き出したのは水だけではない”
という含意があるのです。
■ 暮らしの中での「水」の兆し
節気を暮らしに重ねると、
水泉動は次のような気づきとして味わえます。
- 朝の手洗いの水が「昨日より冷たくない」と感じる
- 湧水や井戸の周りで霜の張り方が変わる
- 氷の下で水流の音がわずかに強まる
実際には気温変化というよりも、
“人が自然を細やかに観察し、季節の移ろいを読む力”
を象徴する候と言えるでしょう。
■ 七十二候における位置づけ
- 小寒・初候:芹乃栄(せりすなわちさかう)
- 小寒・次候:水泉動(しみずあたたかをふくむ)
- 小寒・末候:雉始雊(きじはじめてなく)
小寒は「寒の入り」。
そのなかで水泉動は、
“厳寒の只中にある春の最初の気配”
という象徴的な役割を担います。
節気全体の中でも非常に詩的で、
季節観を静かに揺さぶる候です。
■ まとめ
水泉動は、冬の底冷えの時期に訪れる
“地中での春の胎動” を示す候です。
寒さのなかに潜む小さな変化を見つけることで、
自然と暦の豊かさがより深く感じられます。

