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【小寒・初候】芹乃栄(せりすなわちさかう)| 1月5日頃


🌱 七十二候「小寒・初候 芹乃栄(せりすなわちさかう)」

🌤 自然 ― 冬の水辺に、緑の命が息づくころ

 小寒の初候は「芹乃栄(せりすなわちさかう)」――
 冬の寒さのなかで、せりが勢いよく生え始める時期を意味します。

 毎年1月5日ごろから10日ごろまで、太陽黄経285度付近。
 令和8年(2026年)は1月5日から始まります。

 冬の大地が凍てつく中、水辺だけはわずかに温もりを保ちます。
 その水際に、柔らかな緑の若芽が顔を出す――それがせり。

 寒風にさらされながらも、清らかな流れのもとで生き生きと育つ姿に、日本人は「生命の強さ」と「春の兆し」を見てきました。

 冬枯れの風景の中で、ただ一つ、静かに光を返す緑。
 それは厳しい季節にあっても、確かに息づく命の象徴です。

 芹乃栄は、寒中のわずかな芽吹きが希望に見える――
 そんな冬の自然の美しさを伝える候です。

【小寒】 (しょうかん)

 寒の入りで、寒気がましてくる               

  月:十一月節  太陽黄経:285°

初候 芹乃栄	

 (せりすなわちさかう)

  芹がよく生育する

🏠 暮らし ― 七草の準備、春を迎える支度

 この時期の風物詩といえば「七草」。

 1月7日に食べる「七草粥」は、正月のご馳走で疲れた胃を休め、新しい一年の無病息災を願う行事食です。

 七草のひとつである「せり」は、最初に名を挙げられる植物。

 「競り勝つ」に通じることから、縁起の良い草とされてきました。

 水辺に生えるせりを摘み、すずな(かぶ)・すずしろ(だいこん)などと合わせて粥に炊き込む。

 この素朴な行事には、自然の恵みに感謝し、冬を生き抜く力を体に取り込むという祈りが込められています。

 七草粥は平安時代にはすでに宮中行事として行われていたといわれ、やがて庶民の暮らしにも広まりました。

 朝の食卓に立ちのぼる湯気とともに、家々では春の足音を少し早く感じ取ってきたのです。


🍲 旬 ― 寒の恵み、清らかな水が育てる野菜たち

 せりは清水を好む植物で、冬でも枯れず、香り高い新芽を出します。

 日本各地の湿地や小川のほとりで見られ、古くから「野の薬」として親しまれてきました。

 利尿作用や整腸効果があり、正月の疲れた体に優しい薬草でもあります。

 また、寒さで甘みを増す大根やかぶ、白ねぎ、春菊なども最盛期。

 鍋や粥、味噌汁の具として、冬の滋味を感じさせます。

 魚では寒ブリやタラが旬を迎え、体を温める煮物や鍋料理に重宝されます。

 冬の静寂の中、少しずつ息づく食材たちは、春への橋渡しとなる栄養と香りを届けてくれます。



📚 文化 ― 「寒の芽吹き」と再生の象徴

 「芹乃栄」は、七十二候の中でも特に象徴的な言葉です。

 凍てついた世界の中に芽生える“生命の萌し”を、古人は季語としても愛しました。

 俳句では「芹摘む」「芹汁」などが冬の季語として用いられ、冬の静けさの中に小さな生命の息吹を詠み込みます。

 また、七草粥と同様に、年のはじめに「芽生え」を口にすることで、新しい一年の健康と繁栄を願う意味がありました。

 芹は単なる野草ではなく、“再生の象徴”として古代から生活文化に深く根づいているのです。


🗓 暦 ― 太陽黄経285°、寒中のはじまり

 小寒は太陽黄経285°、暦要項では「寒の入り」とされます。

 ここから立春前日の「節分」までが「寒中」。
 芹乃栄の頃はその最初の一週間にあたります。
 

 寒さの厳しさはこれからが本番ですが、日脚(ひあし)はわずかに伸び始め、自然のリズムは確かに春へと傾き始めています。

 凍てついた風の中で水音を聞くとき、それはまるで、季節が呼吸を取り戻す音のよう。

 暦の上ではまだ冬、しかし心の上では、新しい季節の鼓動が始まっています。


💬 ひとこと

 冬枯れの野にわずかに輝くせりの緑。
 その小さな命は、寒さに負けず、確かな希望を伝えています。

 七草粥にこめられた祈りを思いながら、冷たい風の中に「春の約束」を見つけてみましょう。

 芹乃栄――それは冬の底に宿る、静かな光のことばです。


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