【夏至】(げし)昼の長さが最も長くなる|6月21日頃|
目次
🌿 自然 ― 陽がいちばん長く、影が短くなる季節
夏至は二十四節気の第十節。太陽が最も高い位置を通り、一年でもっとも昼が長い日です。
梅雨前線がゆっくりと北へ押し上がり、雨脚は強弱を繰り返しながら大地を濡らします。
空は白く霞み、湿った風が草の匂いを含んで流れ、田の水面は柔らかい光にゆらぎます。
日照時間は長いのに、太陽が顔を見せない日も多いのが夏至の面白さ。植物にとっては成長の助走のときで、禾本科の穀物はぐっと背を伸ばし、つる性の植物は一晩で景色を変えるほど。緑が匂い立つような季節です。
気温と湿度はゆっくり上昇し、雨の合間に強い陽が差すと蒸し暑さが一気に押し寄せます。
風景は初夏から盛夏へ、まだ目に見えない速度で季節の重心が移る頃といえるでしょう。

【夏至】(げし)
昼の長さが最も長くなる
月: 五月中 太陽黄経: 90°

🏠 暮らし ― 白昼の長さと梅雨の湿り気に向き合う
日が長いということは、活動できる時間が増えるということでもあります。
田畑では日の出前から草取り、苗代の管理、畦(あぜ)の補修が進み、都市では夕暮れの公園にランナーが途切れません。
一方で、長雨は湿気を運び、洗濯物は乾きにくく、食品も傷みやすくなります。
昔の人々は炭を焚いて室内の湿度を調整し、箪笥や紙箱には防虫香を忍ばせ、台所では酢や梅干しが活躍しました。湿度の管理は、暮らしの知恵そのものです。
雨脚の音をききながら読書をしたり、窓辺で風を通しながら湯冷ましの茶を飲んだり。
活動と休息のバランスを取りながら、季節のゆるやかな時間を過ごす節気でもあります。
🍽 旬 ― 雨に育まれる青い実り
夏至は、いよいよ夏野菜が強さを帯びてくる時期。きゅうり、トマト、なす、ピーマン、ししとう──どれもみずみずしく張りが増し、香りは軽やかで清涼感があります。
新じゃが・新玉ねぎもまだ旬の延長にあり、みそ汁や煮びたしにすると甘味がぐっと際立ちます。
果物では梅が黄色みを帯び、梅酒や梅シロップ作りが最盛期。
スモモ、びわ、さくらんぼが店先に並び、やわらかい酸味は雨の季節を明るくしてくれます。
湿度を飛ばすような酸のある果実は、昔から夏至どきの体を整える味として親しまれてきました。

📚 文化・ことば ― 陽極まって陰生ず
夏至は「陽が極まり陰が生まれる日」と語られます。
昼の長さはここを頂点とし、以後はゆっくりと夜が伸びはじめる──
一年のバランスが反転を迎える場面です。
田植えを終えた地域では虫送りの行事が行われ、たいまつの火が夜道を照らし、稲の害虫を追い払う祈りを込めました。火と水、光と闇。相対するものの境界が見えるのもこの頃です。
💬 ひとこと
雨雲の向こうで陽は最も高く、季節は確かに夏へ向かっています。
湿度の重さに心が沈む日も、雨音の奥には新しい季節が息をひそめています。
道端の草の伸び、青田の光、びわの橙──ほんの小さな変化を見つけられると、夏至の時間はぐっと豊かになります。
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