夏の土用 ― 立秋前に置かれた約18日間
「土用」と聞いて、もっともよく知られているのが、
夏の土用
です。
特に、
土用の丑の日
や、
うなぎ
を思い浮かべる人は多いでしょう。
しかし夏の土用は、単に「うなぎを食べる時期」ではありません。
暦の上では、
太陽黄経117度に達したときから、立秋の前日まで
の期間を指します。
土用は春・夏・秋・冬の年4回ありますが、夏の土用はその中でも最も広く知られています。
→ 雑節【土用】とは何か|年4回ある理由と四季・五行・太陽黄経

☀️ 夏土用入りは太陽黄経117度
国立天文台・暦計算室では、土用は雑節の一つとして扱われています。
夏の土用入りは、
太陽黄経117度
です。
そして次の二十四節気、
立秋 太陽黄経135度
の前日までが夏の土用となります。
117度から135度まで。
その差は18度です。
太陽が黄道上を進む時間にすると、およそ18日ほどになります。
ただし、暦日としての土用期間は毎年必ず18日間ではなく、17日・18日・19日のいずれかになります。
📅 夏の土用の中に「大暑」がある
夏の土用の位置を見るうえで重要なのが、
大暑
です。
夏の土用入りは117度。
大暑は120度。
立秋は135度。
つまり、
土用入り117°
↓
大暑120°
↓
立秋135°
という順番になります。
夏の土用は、大暑より少し前に始まり、大暑をすっぽり含んで立秋へ向かう期間です。
たとえば2026年は、
7月20日 夏土用入り
7月23日 大暑
8月7日 立秋



となっています。
ここを押さえると、「夏の土用」が暦のどこにあるのかが非常に分かりやすくなります。
🌿 夏の盛りなのに、なぜ立秋前なのか
夏土用の終わりには立秋が来ます。
そのため、
「こんなに暑いのに、もう秋なの?」
と感じることがあります。
しかし二十四節気の「立秋」は、暑さが終わる日ではありません。
太陽黄経135度という暦上の位置に達した節目です。
実際の日本では、夏土用から立秋のころにかけて厳しい暑さが続く地域も多くあります。
つまり夏の土用は、
体感としては夏の盛りでありながら、暦の上では秋の入口へ向かっている期間
なのです。
この「実際の季節感」と「暦の季節」のずれも、夏土用のおもしろいところです。
🌏 土用は夏だけではない
夏の土用が有名なため、
土用=夏
と思われがちです。
しかし土用は年4回あります。
現在の土用入りは、
冬 297度
春 27度
夏 117度
秋 207度
です。
それぞれ、
立春。
立夏。
立秋。
立冬。
の前に置かれます。
夏土用は、その四つの中の一つです。
🌱 土用の背景にある五行思想
土用という考え方の背景には、中国で発達した五行思想があります。
五行では、
木・火・土・金・水
の五つによって自然や季節などを捉えます。
季節との対応では、
春=木
夏=火
秋=金
冬=水
とすると、「土」が残ります。
そこで各季節の終わりのおよそ1/5を「土」に配する考え方が生まれました。
暦計算室でも、各季節の終わりから1/5ずつを集めて土用とした由来が説明されています。
ただし、
五行思想は土用の歴史的背景
であり、
現在の土用入りの日付は太陽黄経によって決める
という二つは分けて考える必要があります。
🐂 夏の土用の丑の日
夏土用でもっとも有名なのが、
土用の丑の日
です。
十二支は、
子・丑・寅・卯……
と年だけでなく日にも割り当てられ、12日周期で巡ります。
そのため、夏土用の期間中にも「丑の日」がやってきます。
これが、
夏の土用の丑の日
です。
土用期間は約18日あるため、その中に丑の日が2回入ることもあります。
その場合は、
一の丑
二の丑
と呼ばれます。
🐂 「土用」と「丑の日」は別の仕組み
ここは少し整理しておきたいところです。
土用
→ 四季の終わりに置かれる期間
丑の日
→ 十二支が12日周期で巡る中の一日
です。
つまり、
土用だから丑の日になる
わけではありません。
土用という期間の中へ、十二支の「丑の日」がたまたま巡ってくる。
その組み合わせが「土用の丑の日」です。
この二つを分けて見ると、土用の仕組みがずっと分かりやすくなります。

🍱 うなぎを食べる習慣
夏の土用の丑の日には、
うなぎ
を食べる習慣が広く知られています。
この習慣の由来については、平賀源内がうなぎ屋に助言したという有名な話があります。
ただし、この逸話だけをもって現在の習慣の起源をすべて説明するのは慎重であるべきでしょう。
夏の暑い時期に栄養のあるものを食べる習慣や、丑の日に「う」のつく食べ物を食べるという伝承など、複数の文化が重なりながら現在の土用の丑の日につながったと考える方が自然です。
うなぎは、夏土用の暦上の定義そのものではなく、
土用の丑の日に結びついた食文化
です。
🍉 「う」のつく食べ物
土用の丑の日には、うなぎのほかにも、
「う」のつく食べ物を食べる
という習俗が知られています。
たとえば、
うどん。
梅干し。
瓜。
などです。
こうした食文化は、暑い時期の暮らしの中で土用の丑の日に結びついて伝えられてきました。
ただし、
「丑の日に食べれば特別な健康効果がある」
というような意味ではありません。
あくまで、暦と暮らしが結びついて生まれた季節文化として見ておくのがよいでしょう。
🏮 土公神と「土を動かさない」という伝承
土用には、
土公神
という土をつかさどる神の信仰も結びついています。
民間暦などでは、
土用中は土を動かす作業を慎む
という考え方も伝えられてきました。
さらに、その期間の中でも特定の日を、
間日
として扱う考え方があります。
ただし、こうしたものは、
太陽黄経117度から始まる夏土用そのものの暦上の定義ではありません。
土用という季節区分に、後世の信仰や選日の文化が重なったものです。
現在の記事では、土公神や間日の吉凶判断へ深入りするのではなく、歴史的・文化的背景として知っておく程度にしておきます。
🌧 夏土用の自然
夏の土用は、実際の日本では暑さの厳しい時期と重なります。
蝉の声。
強い日差し。
積乱雲。
夕立。
雷。
地域によっては梅雨明け後の盛夏の景色が広がります。
田では稲が育ち、畑でも夏野菜が実るころです。
ただし、
「土用になったから夕立が増える」
「土用だから暑さが極まる」
という直接的な因果関係があるわけではありません。
土用は太陽黄経で定められた暦上の期間であり、実際の天候はその年や地域によって変わります。
それでも、夏土用が一年でも暑い時期と重なりやすいことから、季節の暮らしや食文化と強く結びついてきました。
🏠 暮らし ― 暑さの盛りを過ごす
夏土用のころは、暑さへの備えが必要な時期です。
ただし、これは「土用だから養生しなければならない」という暦上の決まりではありません。
日本の7月下旬から8月上旬は、実際に高温になる日が多い時期です。
水分補給。
室温管理。
十分な休息。
こうしたものは土用の吉凶ではなく、現実の暑さへの対応として考えるのがよいでしょう。
暦の季節文化と、現代の健康管理は分けて見ることが大切です。
🍑 夏土用のころの旬
夏土用は、夏の果物や野菜が豊かな時期でもあります。
桃。
すいか。
ぶどう。
メロン。
地域によっては梨の早生品種なども出始めます。
野菜では、
きゅうり。
なす。
トマト。
とうもろこし。
枝豆。
など、夏らしい食材が並びます。
土用だから特定の食材を食べなければならないわけではありません。
その時期に旬を迎える食材を楽しむことも、季節を感じる一つの方法です。
→ ふるさとフルーツ【夏】
🗓 夏土用から立秋へ
夏土用の最後には、
立秋
が来ます。
暦の上では、ここから秋です。
とはいえ、実際の暑さはまだ続きます。
その後、
処暑。
白露。
秋分。
と進むにつれて、少しずつ秋らしい変化が見えてきます。
夏土用は、
夏が突然終わる期間
ではなく、
二十四節気の立秋へ向かう暦上の終盤
と見ると分かりやすいでしょう。
→ 二十四節気【立秋】
📚 2026年の夏土用を例に見る
2026年の暦要項では、
7月20日 0時48分 土用入り・黄経117度
7月23日 4時13分 大暑・黄経120度
8月7日 20時43分 立秋・黄経135度
となっています。
こうして時刻まで並べると、
夏土用入り。
大暑。
立秋。
という三つの位置関係がはっきりします。
毎年の日付は少し変わりますが、
117° → 120° → 135°
という太陽黄経上の順番は変わりません。
💬 ひとこと
夏の土用は、
「うなぎを食べる日」
だけではありません。
太陽黄経117度で始まり、
大暑120度を通り、
立秋135度へ向かう。
四季に4回ある土用のうち、夏の終盤に置かれた期間です。
そこへ十二支の丑の日や、うなぎ、土公神などの文化が重なり、現在の「夏土用」の姿ができました。
まずは暦の位置を知る。
そのうえで、食や習俗を見る。
そうすると、夏の土用が暦・季節・暮らしが重なる雑節として見えてきます。
次の雑節…二百十日

ひとつ前の雑節…半夏生

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