土用といえば「丑の日」「うなぎ」がまっ先に思い浮かぶ方も多いでしょう。
しかし本来の土用は、夏だけの言葉ではありません。
立春・立夏・立秋・立冬という四季の切り替わりの前、それぞれに約18日ずつ設けられた期間を指します。
その中でも特に意識されるのが 立秋前の約18日間=夏の土用。
梅雨が明け、本格的な暑さが迫る頃で、人も動物も作物も最も負荷のかかる時期です。
目次
🌿 自然 ― 空気は重く、夕立が走るころ
蝉が鳴き、草いきれが立ち、地面から熱が返ってくる季節。
日差しは鋭く、湿気は肌にまとわりつき、午後にはもくもくと入道雲がわく。突然の夕立と雷、蒸気の立ち上るアスファルト。田畑では稲がぐんと背を伸ばし、野菜は一気に実の重さを持ち始めます。
自然は勢いを増す一方で、人の身体は暑さと湿度で疲れやすく、熱中症や夏バテの兆しが表れる頃でもあります。これこそが「土用」が季節の調整期間とされた理由のひとつでしょう。自然はピークへ向かい、まもなく季節は折り返しに入ります。

【土用】(どよう)
夏の土用は立秋前の18日間のこと
夏の土用 太陽黄経: 117°
🏠 暮らし ― 休む、整える、次の季節に渡す時間
古くから土用は 「無理に踏ん張らず、調える時期」 とされました。
土を司るとされた「土公神(どくしん)」の力が強まるとされ、植え替え・造園・建築・地鎮祭など 土を動かすことは避ける という考え方が残ります。
現代に置き換えてみると――
- スケジュールを詰め込みすぎず、負荷を下げる
- 冷房と体温の調整、食と睡眠の見直し
- 湿気対策、カビ・熱気・疲労の管理
「次の季節に備える間」と考えると、どこか腑に落ちます。立秋が近づく頃、わずかな風の変化や夜の虫の声に、秋の気配が忍び寄るのも土用の頃です。
🍑 旬 ― 夏の力を受け取り、身体を立て直す食卓
夏の土用は 身体を立て直す食の季節。
定番の「う」のつく食べ物は、暑さで弱った内臓を助ける養生食の名残です。
- うなぎ…疲労回復と滋養強壮の象徴
- うめ(梅干し)…食欲回復・熱中症対策
- うどん…食が細る季節でも喉を通る
- ウリ類(きゅうり・すいか)…水とカリウムで体を冷やし整える
すいか、桃、枝豆、とうもろこし。どれも水気と太陽を吸いあげた夏のエネルギーそのもの。海ではイワシやウナギが旬を迎え、豊富な脂は夏の体を支えます。「土用=厳しさのピーク」である一方、栄養の宝庫が並ぶ季節でもあります。
📜 文化・ことば ― 丑の日と風習の背景
丑の日にうなぎを食べる習慣は、江戸時代の平賀源内が仕掛けた広告戦略が始まりといわれます。
とはいえ、「う」のつく食物で夏を乗り切る」という食養生の思想はもっと古く、身体を守る知恵として根付いてきました。
また土用干しの梅、布団干し、書物の虫干し――湿気の高い季節だからこそ、太陽の熱を使う保存と衛生の工夫が伝わっています。
💬 ひとこと
土用は一年の折り返し。
無理に走らず、少し立ち止まって体と暮らしを整える時期。
冷たい麦茶、風鈴の音、夕暮れの風――小さな涼に耳を澄ませながら、次の季節への橋を渡す時間です。
次の雑節…二百十日

ひとつ前の雑節…半夏生

関連記事
