| 蚕が目覚め、桑を食べ始めるころ ― 初夏のいのち満ちる季節
目次
🌿 自然 ― 命がみなぎり、初夏の風が色濃くなる
小満は、草木の勢いが日ごとに増し、生きものの生命感が目に見えて満ちていく頃。
初候「蚕起食桑」は、その名のとおり 蚕(かいこ)が冬の眠りから覚め、柔らかな桑の葉を食み始める時期 を示します。
太陽黄経60°、旧暦では四月中。春の名残と夏の熱気がせめぎ合い、景色にも空気にも、季節の厚みが増していきます。
田畑では苗代の緑が濃くなり、麦は色付き始め、川辺ではホトトギスが声を響かせます。
雨上がりの朝、草葉の露は粒を大きくし、陽光を反射して細い水晶のよう。
風は少し湿り、土はあたたかく、季節は確実に夏へ向かっています。
生き物の営みと農の時間が重なり、自然界全体が「育つ力」を帯びる節。
【小満】(しょうまん)
すべてのものがしだいにのびて天地に満ち始める
月: 四月中 太陽黄経: 60°

初候
蚕起食桑
(かいこおきてくわをはむ)
蚕が桑を盛んに食べ始める
🏠 暮らし ― 蚕と桑がつないだ、日本の衣服の歴史
古来、日本の農家にとって 蚕は“財”であり、暮らしを支えた存在 でした。
この時期に孵った蚕は、小さな体で桑を食べつづけ、脱皮を重ねて絹糸を吐き、やがて繭となります。
白く、光を吸うような絹糸は、高価で尊ばれ、藩の財源となる地域も多くありました。
富岡製糸場に象徴される明治以降の近代化も、この小さな生き物の力が支えた文化と言えます。
桑畑の若葉を摘む音、蚕部屋に響くかすかな食音──
農家の朝は忙しく、静かに、しかし確かに動き続けました。
季節が整い、葉が柔らかく、湿度が安定していることは養蚕にとって重要な条件。
この初候はまさに「一年で最も蚕が求められる自然環境が整う頃」でもあります。
🍃 旬 ― 手に取れば季節が香る、初夏の恵み
蚕と桑が象徴的ではありますが、同じ時期に楽しめる旬は多彩。
- 絹の白さのように上品な味わい ― そら豆・新じゃがいも
- 新緑の香りが口に広がる ― 新茶・若竹・山菜の名残
- 晴雨が繰り返す中で瑞々しさが増す ― きゅうり・レタス・スナップエンドウ
果物では、梅が色づく前段階で香りを濃くし、続く麦秋とともに 初夏の台所が一気に季節をまとう頃。
料理は煮物から揚げ物へと軽やかに変わり、涼やかな出汁や新茶がよく似合う季節です。


📚 文化 ― 桑は“富の木”、蚕は“白い金”
「桑を植え、蚕を育て、糸を紡ぐ。」
それは農業と工芸が直結していた 日本の原風景。
蚕は人間の手なしには生きられず、人は蚕を守り育て、糸を得る。
この相互依存が日本の衣文化を形成し、祝い事の晴着から武具の紐・帯まで、絹は暮らしのあらゆる場面に息づきました。
「白き糸は家の柱」
そう言われるほど、蚕は家計の中心であり、命をつなぐ存在。
小満の初候は、その営みの最初の一呼吸。
桑の葉一枚が、やがて糸となり、布となり、文化となる歴史を秘めています。
📝 ひとこと
小さな命が葉を食む音、それは季節の歯車が確かに動く音。
繭となる未来を想像しながら、今日も桑は風にそよぎます。
育つ力は静かで強い――
小満の初候は、その始まりを教えてくれる季節です。
☆ 見つけました。「カイコのひみつ」。
農研機構、正式名称だと、「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構」に、季節の話題を取り上げてご紹介する連載コンテンツ「農研機構 「旬」の話題」という
のがありました。この機会に、カイコのこと、少し勉強しましょう。

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「カイコのひみつ」第 1 弾
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