【大暑・初候】桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)
大暑の幕開け、桐の花房が静かに形を宿し始める頃。
目次
🌿 自然 ― 日差しは鋭く、夏は頂点へ
夏の二十四節気「大暑」は、一年で最も暑さが極まる季節。
空気には熱が満ち、風さえもあたたかく、草木は強い光を吸い込んで濃い緑に変わります。
田畑の稲はぐんと背を伸ばし、遠くの空では入道雲がむくむくと湧き上がる。
蝉の声は朝から響き、夜には草むらの熱気まで伝わってくるようです。
そんな盛夏の始まりに現れるのが、この候 「桐始結花」。
春には紫の美しい花を咲かせた桐(きり)が、再び秋の開花に備え、花房のもととなる小さな蕾を結び始める頃を指します。
強烈な日差しの下でも、静かに命の準備を進める桐の姿は「暑さの中にも季節は巡る」ことをそっと教えてくれます。
【大暑】(たいしょ) 月: 六月中 太陽黄経:120°
夏の暑さがもっとも極まるころ

初候 桐始結花
(きりはじめてはなをむすぶ)
桐の花が(来年の)蕾をつける
🏠 暮らし ― 涼を求め、からだを守る知恵
大暑は、人にとって最も疲労が蓄積しやすい季節でもあります。
古くから日本の暮らしには、暑気払いの工夫が多く伝わりました。
- 打ち水で涼風を呼ぶ
- すだれや簾(す)で日差しを和らげる
- 風鈴や金魚鉢で体感温度を下げる
- 朝夕に水やりを行い、庭木や菜園を守る
とりわけこの時期は「暑気あたり」に注意が必要で、味噌汁・梅干し・酢の物・麦茶など、塩分と水分を同時に補える食生活は理にかなった知恵です。
夜には、星が瞬き、うっすらと立つ天の川が夏の夜空を飾ります。
熱帯夜が続く中でも、静けさの中で耳を澄ませると風や虫の声がかすかに涼を運んでくれることでしょう。
🍽 旬 ― 夏野菜が甘みを蓄え、体を冷やす
大暑の頃は「太陽の味」が濃くなる季節。
水分をよく含む夏野菜が旬を迎え、熱を持った体を内側から冷やしてくれます。
- トマト・きゅうり・なす … 火照りを鎮める夏野菜の代表
- とうもろこし・枝豆 … 夏のたんぱく源・畑のエネルギー
- すいか・メロン … みずみずしく喉を潤し、暑気払いに最適
魚では、鰻(うなぎ)が話題の中心に。
土用の丑の日にうなぎを食べる風習は江戸期から根付き、ビタミン豊富な食材として今も人気です。
また、しらす・あじ・かますなど、夏の沿岸の魚もさっぱりと食卓を彩ります。


📚 文化・ことば ― 桐と日本の象徴
桐は古来より瑞鳥「鳳凰(ほうおう)」が宿る木とされ、家紋にも多く用いられました。
五七桐の紋は現在も内閣総理大臣の紋章として使われており、国家を象徴する植物の一つです。
夏の盛りに結ばれる桐の蕾は、秋の花の約束であり、時間をかけて成熟していくその生態は、日本人の季節観と深く結びついてきました。
💬 ひとこと
炎暑のなかで育つ桐の小さな蕾は、気づかなければ見過ごしてしまうほど控えめです。
けれど、その小さな始まりの中に、季節の連なりと命の循環が宿っています。
暑さは厳しい日々ですが、時折影に入り、風の気配を確かめながら過ごしてみてください。
夏はただ厳しいだけでなく、「次の季節を育てている」温度でもあるのです。
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