【立夏・次候】蚯蚓出(みみず いずる)|大地が動きだす、初夏の息づき
目次
🌤 自然 ― しっとりと土がゆるみ、地中の命が地表へ
立夏の次候「蚯蚓出(みみず いずる)」は、地温が上がり、冬の間に深い土中で過ごしていたミミズがゆっくりと地表に姿を見せる頃をいいます。土の中には無数の微生物が息づき、それらを食べ、糞とともに土壌を肥沃に変える——ミミズはまさに大地の循環を支える小さな働き手です。
初夏の湿り気を含んだ土はふわりと柔らかく、踏みしめる足裏にわずかな弾みを返してくるようです。畑を耕せば淡い赤茶色の体がくねりと現れ、草の根を辿るようにゆっくりと這う姿に、命が地中から湧き上がっていくような感覚を覚えます。
野山では麦の穂が伸び、田には水が入りはじめます。風はまだ涼しいけれど、陽射しの角度は確実に夏を孕み、空を仰ぐと澄んだ青が少しだけ白っぽく霞む──春の余韻と夏の熱が混ざりあう、わずかなゆらぎの季節です。
【立夏】 (りっか) 月: 四月節 太陽黄経: 45° 夏の気配が感じられる

次候
蚯蚓出 (みみずいづる)
蚯蚓が地上に這出る
🏠 暮らし ― 土と向き合う季節、家庭菜園が楽しくなる
この頃になると、畑や家庭菜園では土の湿度が安定し、植えつけの適期となります。ナス、キュウリ、トマト、バジルなどの苗が店頭に並び、初夏の台所へまっすぐつながる季節。ミミズの多い土は肥えた土地とされ、作物の生育が良くなることから、昔は「ミミズが多ければその年はよく実る」とも言われました。
夜明けの早い季節で、畑しごとは朝の涼しいうちが最も快適。鍬を入れると土が甘い匂いを立て、湿り気を含んだ黒い層が顔を出す——そんな瞬間に「季節が動いた」と体で感じられます。
🍽 旬 ― 初夏の青さと瑞々しさをそのまま味わう
蚯蚓出の時期は、露地野菜が生き生きと伸び始める頃。
とりわけ、
- そら豆
- 新じゃが
- 新生姜
- 若ごぼう
- 初夏の葉物(ほうれん草・小松菜)
などが旬を迎えます。ゆでたそら豆の野趣ある香り、新じゃがのホクホクとした甘み、生姜の鋭い香りが加わると、台所には初夏の匂いが満ちていきます。
果実ではビワが色づき始め、ほどけるような果肉の柔らかさと淡い甘さが季節を告げます。雨の合間に陽の光がのぞくと、庭や畦道の草木から立ち上る青い香りに、夏の手前の透明な時間が感じられます。



📚 文化 ― 目に触れないものにも季節は宿る
ミミズは普段見えない地下世界の住人です。ところが立夏の次候、その姿があらわになる。
古人はそこに「大地が息を吹き返す」瞬間を見ました。
畑に立ち、雨上がりの土を見つめるだけで、季節の深層が感じられる——まさに七十二候ならではの視座です。
💬 ひとこと
目に見えないものに季節を見つけられると、世界の解像度が少し上がります。
ミミズ一匹、土の手触り、日差しの角度——小さな変化を拾うたび、立夏は鮮やかに立ち上がります。
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