穀雨・初候は、七十二候で
「葭始生(あし はじめて しょうず)」 といいます。
葭(あし)――つまり、葦(あし)。
今ではヨシという呼び名のほうがよく知られているかもしれません。
穀雨は、春の雨がやわらかく増え、
土と水がいよいよ整っていく節気。
その入口に置かれたのが、
**「水辺の草が伸び始める」**という目印です。
花ではなく、草。
山ではなく、水辺。
穀雨らしい、地に足のついた候なんですよね。
目次
■ 穀雨とは何か──雨が“恵み”になっていく節気
穀雨(こくう)は
穀物を潤す雨
という意味の節気です。
春の前半の雨は、
- 冷たかったり
- 気まぐれだったり
- 花を散らしたり
どこか「不安定さ」をまとっていました。
でも穀雨になると、雨の意味が変わってきます。
- 土を整える雨
- 種を迎える雨
- 苗を育てる雨
つまり、農の時間が動き始める。
その“切り替わり”を象徴するのが、葭の芽吹きです。
■ 葭(あし/葦/ヨシ)はどんな植物?
葦(ヨシ)は、水辺に群生する背の高い草です。
川、湖、田の縁、湿地。
水を含んだ土地に、びっしり生えます。
冬の葦は枯れて、茶色く硬い茎が残ります。
風に揺れても、音は乾いていて、景色も静かです。
ところが春、
水温が上がり、地面が緩みはじめると――
葦はまず「足元」から芽を出す。
まさに「始生(はじめて しょうず)」。
季節が、地面から立ち上がってくる感じがあります。
■ なぜ最初に「葭」なのか──春の水が動き始めるから
桜や鶯は、春の華やかさを告げます。
でも穀雨は、それとは違います。
穀雨は
春の“実用”の始まり
です。
土を耕し、水を引き、苗を育てる。
季節が、生活の準備から、暮らしの稼働へ移る。
その変化を一番敏感に映すのが、
水辺に立つ葦だったのでしょう。
葭が芽吹くということは、
- 地中の温度が上がった
- 水が冷たすぎなくなった
- 春が「安定」してきた
ということです。
■ 「あし」と「よし」──呼び名に暮らしが残る
葦は、古くは「あし」と呼ばれました。
ただ、「あし」は音が
**「悪し(よくない)」**に通じるため、
縁起を担いで
「よし(良し)」と呼ぶようになった
と説明されることがあります。
この話が真実かどうか以上に面白いのは、
植物にまで縁起を重ねていた
という感覚です。
葦はただの草ではなく、
- 屋根材
- すだれ
- 生活道具
- 水辺の守り
にもなる、身近な素材。
暮らしと近いからこそ、
名にも意味が宿る。
そういう植物なんですよね。
■ 葦の芽吹きは「田の季節」の合図でもある
穀雨は田の季節です。
田起こし、代かき、苗代。
水が必要になっていく。
その時期に、
水辺の代表である葦が芽吹き始める。
これは偶然ではなく、
暦の目が「農に向いている」ことの証拠だと思います。
七十二候は、単なる自然観察ではありません。
自然を見ながら、
生活の段取りを整える暦です。
葭始生は、その性格が非常によく出た候です。
■ 今の暮らしで「葭始生」を感じる瞬間
現代だと、葦の芽吹きを意識する人は少ないかもしれません。
でも、
- 川沿いの遊歩道
- 田んぼの周囲
- 湖の縁
- 用水路
こういう場所を歩くと、春の後半ははっきり見えます。
枯れた葦の群れの根元に、
薄い緑の芽が立ってくる。
そして数週間で、
「え、こんなに伸びるの?」
というくらい、急に景色が変わります。
穀雨は、「春が育つ」季節です。
■ 葭始生──春が“地面の側”から完成していく
春は、最初は風でした。
次に鳥でした。
次に花でした。
次に虹でした。
そして穀雨に入ると、
主役は「地面」になります。
水、土、草。
春は空から始まり、
最後は地に落ち着く。
葭始生は、そんな候です。

