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【立冬・末候】金盞香(きんせんかさく)…11月17日頃

🌼 自然 ― 冬の陽ざしに金盞花が香るころ

 立冬の末候「金盞香(きんせんかさく)」は、
 晩秋から初冬にかけて咲く「水仙(すいせん)」の花を意味します。

 「金盞(きんせん)」とは、黄金の盃(さかずき)をかたどった花の形のこと。
 白い花弁に囲まれた黄色い副花冠が盃に見えることから、古代中国ではこの花を「金盞花」と呼びました。

 太陽黄経はおよそ240度、11月17日~21日ごろ。
 冷え込みが増し、北風が吹き始める頃、野や庭の片隅にひっそりと咲く水仙の香りが冬の訪れを告げます。

 水仙は、寒さの中でも凛として立つ花。
 朝霜をまといながらも花弁を保ち、その清楚な姿に「忍耐」や「純潔」の象徴を見る人も多いでしょう。
 冬の最初に咲く花として、まさに「冬のはじまりの詩人」です。

立冬】 (りっとう)

 冬の気配が感じられる
            月: 十月節  太陽黄経:225°

末候 金盞香	
  (きんせんかさく)

 水仙の花が咲く

🏠 暮らし ― 凍てる朝とともに始まる冬の日常

 この頃になると、霜が地面を覆い、朝は白い息が長く伸びるようになります。
 衣類も厚手のものに替わり、手袋やマフラーが欠かせません。

 家の中では火鉢やストーブに火が入り、部屋のぬくもりが一日の中心になります。
 湯気の立つお茶や煮込み料理の香りが、冬の暮らしを実感させる季節です。

 農村では収穫が一段落し、保存食の仕込みや、藁(わら)細工、正月飾りの準備が始まります。
 「稲わらをなう音」「火のはぜる音」が、寒空の下の生活音として耳に心地よく響きます。

 また、寒気が進むにつれ「お歳暮」や「年末準備」といった言葉が少しずつ日常に現れ始め、
 人の暮らしも年の瀬に向かって動き出す時期でもあります。


🍊 旬 ― 寒さが甘さを育てる頃

 この時期の旬は「みかん」「大根」「かぶ」「ねぎ」。
 寒さにあたることで糖度が増し、野菜たちは「冬の味」へと変わっていきます。

 特にみかんは、初冬の食卓に欠かせない果物。
 皮が薄くなり、果汁が濃くなるこの季節の早生みかんは、日本の冬の象徴といえるでしょう。
 こたつに入って食べるあの甘酸っぱさ――
 それはまさに金盞香の頃の風物詩です。

 魚介ではブリ、カレイ、サバなどが旬。
 脂ののった切り身を照り焼きや味噌煮でいただけば、寒さを忘れるほどの滋味が広がります。

 また、ゆずが色づき始めるのもこの頃。
 香り豊かなゆず湯や、鍋の薬味として重宝され、冬至前の食文化へと自然に繋がっていきます。


📖 文化 ― 冬を告げる花、水仙に込められた祈り

 「金盞香」は、中国『暦便覧』の表現に由来します。
 もともと「金盞花」は水仙の別名で、その芳香が冬の訪れを知らせるとされました。

 日本でも古くから水仙は「雪中花」と呼ばれ、雪に埋もれながらも咲くその姿が、清らかさと気高さを象徴するものとして親しまれてきました。

 和歌では「冬の花」として詠まれることが多く、たとえば『万葉集』にも、冬の寒風の中に咲く花を希望や再生の象徴として描いた歌が見られます。

 また、水仙は「年の暮れを告げる花」として、歳末の茶席や床の間にも飾られます。
 凍える大地の上でなお香るその香りは、冬の厳しさと、人の心の温かさを結ぶ象徴なのです。


🗓 暦 ― 太陽黄経240度、冬の確立期

 立冬の末候は、太陽黄経240度にあたる時期。
 昼の長さは冬至に向けてさらに短くなり、日暮れは16時半を切る地域もあります。

 朝の最低気温は0℃前後、初氷の便りも届き始め、霜柱が日課のように立つようになります。

 この頃には「北風小僧」が吹き、木枯らしの季節が本格化。
 晴れた空に乾いた風が流れ、木々の葉が落ちていく音までが冬の音楽のようです。

 暦の上でも「冬本番の入口」に差し掛かるこの時期。
 次の節気は「小雪(しょうせつ)」――
 いよいよ雪の気配が現れる季節へと移り変わっていきます。


💬 ひとこと

 「金盞香」という言葉には、“寒さの中にも生命が香る”という美しい響きがあります。

 凍てつく風に逆らうことなく静かに咲き、香りを放つ水仙の姿は、冬の厳しさを受け入れながら生きる人の姿にも重なります。

 自然が眠りに入る中、ひとり咲く花がある――

その存在が、冬の世界に確かな光を添えてくれるのです。

次の七十二候… 小雪・初候

ひとつ前の七十二候… 立冬・次候

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