――近代日本が生み出した「考えるための言葉」
「和製漢語」という言葉を聞くと、
どこか専門的で、学術用語のように感じるかもしれません。
しかし、
私たちが日常的に使っている多くの言葉は、
実はこの和製漢語に含まれています。
和製漢語とは、
近代日本が西洋文明と向き合う中で生み出した、
思考のための言葉でした。
目次
和製漢語の定義
和製漢語とは、一般に次のような言葉を指します。
日本で作られた、
あるいは日本で意味を再定義された漢語で、
主に近代以降の概念を表すために用いられた語
重要なのは、
「漢字を使っているかどうか」ではなく、
概念の成立が日本にあるかどうかです。
和製漢語はいつ生まれたのか
和製漢語の多くは、
幕末から明治期にかけて生まれました。
この時代、日本は西洋文明と本格的に接触し、
- 科学
- 哲学
- 社会
- 経済
- 権利
- 民主
といった、
それまで日本語に存在しなかった概念を
理解し、説明し、教育する必要に迫られます。
そのために選ばれた方法が、
漢字を用いた翻訳でした。
なぜ漢字だったのか
当時の日本にとって、漢字は
- 抽象概念を表現できる
- 学術用語としての蓄積がある
- 中国古典との連続性を持つ
という、
非常に強力な表現手段でした。
新しい概念に対して、
- 既存の漢字を組み合わせ
- 意味を慎重に吟味し
- 日本語として自然な形を与える
この作業によって、
和製漢語が生み出されていきます。
新造語と再定義語
和製漢語には、大きく二つのタイプがあります。
① 新造語(まったく新しく作られた語)
- 科学
- 哲学
👉
従来の日本語では受け止めきれなかった概念に対し、
新しい言葉そのものが作られた例です。
② 既存語の再定義・意味拡張
- 社会
- 経済
- 技術
- 宗教
- 自由
- 権利
👉
言葉は存在していたが、
近代的な意味へと書き換えられた例です。
和製漢語と「翻訳語」の違い
和製漢語は、単なる翻訳語ではありません。
- 音を写した語ではない
- 意味を考え、再構成している
- 日本語として定着することを前提にしている
つまり和製漢語とは、
翻訳を通じて生まれた、日本語の新しい語彙
なのです。
和製漢語が果たした役割
和製漢語は、近代日本において、
- 学問を体系化する
- 教育を可能にする
- 制度や法律を言語化する
といった役割を果たしました。
もし和製漢語がなければ、
西洋文明は、
- 断片的に理解され
- 限られた人の知識に留まり
- 社会全体に共有されなかった
でしょう。
中国語への影響(漢語輸出)
和製漢語の多くは、
日本語の中だけに留まりませんでした。
- 科学
- 哲学
- 社会
- 経済
- 民主
といった語は、
中国語の近代語彙としても定着しています。
これは、
日本語が翻訳の中継地となった結果です。
和製漢語は、
東アジア全体の思考基盤にも影響を与えました。
現代における和製漢語
今日、私たちは、
- 和製漢語を意識せず
- 当たり前の日本語として
- 日常的に使っています
それだけに、
その成立背景を振り返ることは、
言葉と思考の関係を見直す手がかりになります。
おわりに──和製漢語は、思考の道具だった
和製漢語は、
西洋文明を「日本語で考える」ために生まれました。
それは、
外来文化をそのまま受け入れるのではなく、
自分たちの言葉として引き受ける努力でした。
文明開化とは、
制度や技術の導入ではなく、
和製漢語を通じて思考の道具を整えた時代だったのです。
