― 冬の空から虹が消える理由と、日本人の“虹の見え方”の物語 ―
目次
1.虹が“冬に消える”と感じた理由
七十二候・小雪の初候は 「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」。
古代の人々は、晩秋から初冬にかけて虹を見る機会が急に減り、
「空のどこかに隠れてしまったのだろう」と感じたのでしょう。
実際、自然科学的にも理由があります。
● 冬は太陽高度が低く、虹が出る角度が確保できない
虹は太陽の高度が約42度以下のときに見えます。
冬は太陽自体が低いため、太陽光が後ろから差し込む条件が成立しにくくなります。
● 雨粒が小さく、そもそも「虹を作る雨」が少ない
冬の雨は粒が細かく、雪まじりになることも多く、虹が形成されにくい。
古代の人々はこれらを経験則で知り、
「季節が変わると、虹の気配も変わる」
と自然のリズムとしてとらえていたのです。
2.日本人にとっての“虹”とは何だったのか
虹は日本の古典文学にしばしば登場しますが、
たとえば中国のように「龍の化身」と強く神話化されることは少なく、
もっと繊細で、儚い自然現象として描かれます。
● 『万葉集』では“感情の色”を映す存在
雨のあとに現れる虹は、
心の揺れや、別れと出会いの象徴として登場します。
● 平安文学では“天からの便り”
唐文化の影響を受けながらも、
虹は「突然現れてすぐ消える、得も言われぬもの」とされ、
幽玄の象徴として扱われていました。
日本人は虹を
「天が描く、一瞬の色彩」
として親しんできました。
3.冬の虹は“特別な虹”
冬に虹がかかることは珍しく、
現代でも SNS に投稿されると話題になります。
● 大気中の氷晶で起こる “幻日”
● 彩雲・環天頂アーク
● 低い太陽で生じる“逆さ虹”
冬は「通常の虹は出ない」代わりに、
光学現象が美しく現れる季節でもあります。
古代の人々が「虹が隠れる季節」と言ったのは、
虹だけでなく光の変化全体を感じ取っていたのかもしれません。
4.現代の季節感と“虹蔵不見”
晩秋から冬へ。
風が乾き、空が澄み、日差しが弱くなると、
確かに虹を見る機会は減ります。
その気づきを暦に刻んだのが虹蔵不見。
「見えない」という変化を季節として受け取る感性は、
現代の私たちが忘れがちな “自然の微細な表情” を思い出させてくれます。
5.締めくくり
虹は現れては消える“束の間の光”。
そのゆらぎを暦として残した七十二候は、
私たちに季節の観察者であることを思い出させてくれます。
冬に虹を見かけたら、
それは一期一会の景色。
古代の人々ならきっと、
「隠れていた虹が少しだけ姿を見せてくれた」と語ったことでしょう。

