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❄ 土地が凍る ― 地始凍(ちはじめてこおる)とは
立冬の次候にあたる「地始凍(ちはじめてこおる)」は、
大地が初めて凍り始める頃 をあらわす七十二候です。
秋の湿った土が朝夕の冷え込みで硬く締まり、霜柱が立ち、
足元から「冬が来た」と知らせてくれる季節です。
同じ「立冬」の中でも、初候は花が咲く(山茶花)、
次候のこの地始凍では 季節が明確に“冬側”へ傾く合図 とされてきました。
❄ 大地が凍るしくみ
地面が凍るのは、空気の温度が0℃以下になるだけではなく、
地表近くの土の水分が放射冷却で一気に冷やされる ことで起きます。
特に日本の晩秋は、晴れた夜ほど放射冷却が強まりやすく、
- 朝の霜柱
- 凍ったわだち
- 泥が硬く締まる
といった景物が見られます。
昔の人が「冬の気配をまず足元に見た」のは大変興味深い感覚です。
❄ 日本の暮らしと「地始凍」
江戸時代の歳時記を見ると、
立冬の頃は 冬支度の開始 に重ねられることが多くありました。
- 井戸を覆う
- 煙抜きの手入れ
- 藁靴(わらぐつ)や手袋の準備
- 冬菜の収穫と貯蔵
特に土の凍り始めは農家にとって大きな区切りで、
「地の凍るは、はたけ仕事を納むるしるし」
と記される地域もあります。
土の凍結=冬越し作業を始める合図
だったわけです。
❄ 文学に見える「凍る大地」
古典文学では、地中の虫が動きを止め、
大地が沈黙していく様子が冬の象徴として描かれてきました。
俳句でも「凍土(いてつち)」「霜柱」「初氷」など、
足元の変化を詠む季語は少なくありません。
中国古典でも「冬の始まりは地の凍るをもってす」とあり、
七十二候の成立以前から共通する自然観があったと考えられます。
❄ 気象学から見た地始凍
現代の気象データを見ると、
地面の凍結は気温より 地温(ちおん) の影響が強く、
都市と農村では凍るタイミングが大きく異なります。
- 都市:地表面が暖まりやすく、凍結は遅め
- 農村:放射冷却が強く凍りやすい
- 山間部:早朝から長時間凍る
七十二候は京都・奈良周辺の季節感を基準に構成されているため、
地域差を踏まえると「いまの自分の住む場所ではいつ凍るのか」
という見方も楽しめます。
❄ 地始凍が教えてくれる季節の感性
地始凍は大きな現象ではありませんが、
自然の“ささやかな変化”に耳を澄ます感性 を残しています。
- 水音が変わる
- 畑が締まる
- 霜柱のザクッという音
- 朝の白い息の濃さ
こうした小さな変化を季節の「代表」として選んだ七十二候には、
昔の人の観察力と詩情が宿っています。
現代でも、忙しい日々の中で立ち止まり、
足元に訪れる冬を感じてみると、
暮らしの風景が少し豊かに変わっていくかもしれません。

