目次
🌸 自然 ― 冬を告げる花、山茶花のころ
立冬の初候「山茶始開(つばきはじめてひらく)」は、山茶花(さざんか)が咲き始める頃を示します。
旧暦でいえば霜月上旬、新暦では11月7日ごろから12日ごろ。
太陽黄経は225度を少し過ぎ、暦の上では冬の最初の七日間。
空気は冷たく澄み渡り、朝の霜が野に降りると、 紅や白の花がその上に凛と咲き、初冬の彩りを添えます。
山茶花は、椿(つばき)と同じツバキ科の花。
しかし、椿が花ごと落ちるのに対し、山茶花は花びらを一枚ずつ散らすのが特徴です。
地面に広がる花びらの絨毯は、冬の訪れをやさしく告げる風景。
寒風のなかでも静かに咲くその姿は、「耐える美しさ」「凛とした誠実さ」として
古くから冬の象徴として親しまれてきました。
【立冬】 (りっとう)
冬の気配が感じられる 月: 十月節 太陽黄経:225°

初候 山茶始開
(つばきはじめてひらく)
山茶花が咲き始める
🏠 暮らし ― 冬支度とぬくもりの始まり
この頃になると、家々ではこたつを出し、火鉢やストーブに火を入れ始めます。
初霜や北風の便りが届くと、自然と温もりを求める気持ちが高まるのです。
農家では、晩秋の収穫を終えた田畑の整備が続きます。
冬野菜の間引きや、干し大根・干し柿づくりも盛ん。
「寒干し」「日干し」といった保存の知恵が、この時期の暮らしを支えてきました。
また、立冬の初候は「炉開き(ろびらき)」の季節でもあります。
茶の湯の世界では、夏に使っていた風炉をしまい、冬の炉を開いて炭火を入れる儀式を行います。
冬の到来を静かに受け止め、炭のぬくもりと共に季節を感じる――
その感性は、今も多くの日本人の心に残る情景です。
🍊 旬 ― 秋の名残と冬の恵みが交わるころ
市場には、晩秋から冬の味覚が混ざり合います。
柿は甘柿から干し柿へ、りんごはふじ系の晩生が旬に。
みかんやゆずも出回り始め、香りが冬の訪れを知らせます。
野菜では、大根、白菜、かぶ、ほうれん草などが出盛り。
鍋料理や味噌汁に欠かせない具材がそろい、食卓は一気に「温かいもの」へと変化します。
魚はサケ、ブリ、タラなど脂がのり、寒さが旨味を育てる時期。
「寒ブリの初水揚げ」「ししゃもの旬」など、冬の味覚ニュースもこの頃から聞こえ始めます。
旬の果実と温かい料理。
どちらも、冷たい空気に包まれた体と心をやわらげる“冬の入口の味”です。


📖 文化 ― 山茶花と冬のこころ
「山茶始開」という表現は、中国の古暦に由来します。
日本では、山茶花が開く季節として早くから受け入れられ、冬の季語として定着しました。
俳句では、「散る花びらの儚さ」「凛とした白」が好まれ、「山茶花や 冬に入る日の 空の色」など、
秋から冬への静かな移ろいを詠む句が多く残ります。
山茶花の花言葉は「ひたむきな愛」「困難に打ち克つ」。
寒さに負けず咲き続ける姿が、人の生き方と重ねられてきました。
茶花としても重宝され、茶室の床の間に一輪を挿すことで、季節感と静けさを同時に表す役割を果たします。
「華やかではないけれど、心を打つ」――
それが立冬初候の花、山茶花の魅力です。
🗓 暦 ― 太陽と季節の位置づけ
太陽黄経225度を越え、昼の時間が急速に短くなる時期。
東京では日の入りが16時40分前後となり、夕方5時前には薄暗くなります。
朝の冷え込みが強まると、霜柱が立つこともあり、「初霜」「初氷」の観測が各地で報告されます。
この節は、立冬から次候「地始凍」までの約5日間。
日中はまだ過ごしやすく、空の青さも残りますが、朝晩の冷え込みが確実に季節の変化を感じさせます。
自然界も人の暮らしも、少しずつ“冬の形”に近づいていく。
そんな変わり目の季節です。
💬 ひとこと
霜の降りる朝に、山茶花の花びらが一枚、静かに地に落ちる。
その一瞬に、季節の深さを感じる。
派手ではないけれど、確かに世界は冬へと歩み始めている――。
山茶始開の頃、自然は“静かな動き”で新しい季節を告げています。
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