【秋分・末候】 水始涸 (みずはじめてかる)…10月3日~

自然 ― 田の水が落ち、実りを迎える大地


 秋分の末候「水始涸」は、田んぼの水を抜き、収穫の仕上げに向かう季節を指します。

 田に満ちていた水が静かに涸れ、土が現れ始める光景は、秋の終盤を告げる大切なしるしです。

 黄金色に染まった稲穂は収穫を待つばかりで、風に揺れる様子は自然の豊饒を映し出します。

 また、山々では木々の色づきが始まり、カエデやナナカマドが少しずつ赤や黄を帯びてきます。

 虫の声はほとんど聞こえなくなり、代わって渡り鳥の姿が増え、冬に向かう自然のリズムが一層はっきりとしてきます。

【秋分】(しゅうぶん)           月: 八月中     太陽黄経:180°

  太陽が真東から昇って真西に沈み、昼夜がほぼ等しくなる               

末候 水始涸

みずはじめてかる)

田畑の水を干し始める

暮らし ― 稲刈りと実りの祭り

 農村では、いよいよ稲刈りの最盛期。天日に干した稲からの匂いが漂い、収穫の喜びとともに忙しさに追われる日々が続きます。

 稲刈り後の田んぼには、わらを束ねた「稲架(はざ)」が整然と並び、秋の象徴的な風景をつくり出します。

 また、この頃は秋祭りのシーズン。新米や野菜を神前に供え、豊作を感謝する行事が各地で行われます。

 農作業に携わる人々にとっては、労をねぎらい、地域の絆を深める大切な場でもありました。

 現代でも、収穫祭やイベントが各地で開催され、実りを祝いながら秋を楽しむ伝統が息づいています。

旬 ― 食卓を彩る秋の味覚

 食材もまさに豊かさを極める時期です。

 稲刈りの新米は香り高く、炊きたてのご飯に栗やきのこを合わせた「秋の炊き込みご飯」は格別のごちそう。里芋や大根も出盛りで、煮物にすると体を温めてくれます。

 果物は梨やぶどうが引き続き盛りを迎えるほか、柿やりんごが市場に並び始めます。

 渋抜きされた柿の甘さは秋ならでは。ふるさと納税の返礼品でも、柿や早生りんごのセットが人気で、旬の恵みを全国から取り寄せる楽しみが広がっています。

 魚介では、脂の乗った秋刀魚や戻り鰹が食卓を豊かにし、旬の味覚が一堂に会する季節といえるでしょう。

文化 ― 実りの歌と秋の情緒

 日本の文学や芸能にも、収穫と秋の情緒は深く結びついてきました。

 『万葉集』には稲穂や刈田を詠んだ歌が数多く残り、秋の実りを寿ぐ心が読み取れます。

 また、稲を刈る姿や実りを分け合う場面は、民謡や舞踊としても各地に伝承されました。

 この時期は夜が長くなり、月を愛でる文化がいっそう濃くなります。中秋の名月を過ぎても、十六夜、立待月、居待月と続く「月待ち」の風習があり、人々は夜長を楽しみながら自然と共に暮らしてきました。

暦 ― 月のリズムと季節の節目

 秋分から寒露へと向かうこの時期、昼よりも夜が長くなり、暦の上でも秋が深まります。

 月の満ち欠けは秋の夜を彩り、農作業の区切りとも重なります。

 国立天文台の暦要項には、朔弦望の日時や月食・日食の情報が記され、古来、人々はこれを生活のリズムに取り込んできました。

 秋分末候のころは、次の節気「寒露」へと移る直前であり、秋から冬への橋渡しの季節でもあります。

ひとこと

 田んぼの水が落ちる音は聞こえなくとも、乾いた土の香りが秋の深まりを告げています。

 実りの風景の中で、自然も人も次の季節への準備を始めています。

 静かながらも力強い移ろいに、秋という季節の奥行きを感じさせられます。

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