啓蟄・末候は、七十二候で
「菜虫化蝶(なむし ちょうと なる)」 といいます。
菜虫(なむし)――
菜の葉につく虫、いわば青虫です。
それが蝶になる。
春の終盤に、暦はこんな大胆な変化を置きました。
土がゆるみ、虫が動き、桃が咲いたあと。
最後に来るのは、変身です。
目次
■ 「菜虫」とは何か──身近な青虫たち
菜虫といっても、特定の一種類の虫を指すというより、
昔の暮らしの感覚では
- 菜の葉につく虫
- 畑でよく見る青虫
その総称だったのでしょう。
昔の人が春に見ていたのは、
図鑑に載る名前ではなく、
畑の菜っ葉にいる、“あの虫” です。
そしてその虫が、ある日ふっと姿を消します。
死んだわけではない。
ただ、別の形へ移っていく。
この「見えなくなる時間」こそ、
変身の不思議さの核心ですよね。
■ 虫が蝶になる──春の変化はここまで来た
啓蟄の初候は「虫が動き出す」。
これは春の始動です。
でも末候は違います。
動くだけではなく、
命が姿を変える。
それは、春がいよいよ本気になった証拠です。
冬の間、世界は固まっていました。
- 土が固い
- 空気が固い
- 生き物の動きも止まる
けれど啓蟄の終わりには、
世界そのものが柔らかくなり、
「変われる」季節へ入っていく。
菜虫化蝶は、春がそこまで来たことを告げる候です。
■ 変身は、いつも静かに起きる
蝶への変身は、派手なようでいて、とても静かです。
青虫は、あるとき葉を離れ、
どこかで蛹(さなぎ)になります。
そして長い沈黙のあと、
羽が整い、乾き、蝶になる。
生まれ変わりの瞬間は、
ほとんど人目につかないところで進みます。
だからこそ昔の人は、
蝶を見たときに驚いたのだと思います。
「あの虫が、こうなるのか」
春の不思議は、理屈より先に
目の前で起きてしまうのです。
■ 蝶は“春の完成”の象徴
蝶が飛び始めると、
春はもう確定です。
草木の芽吹きは春の兆し。
花は春の色。
でも蝶は、春の「軽さ」そのものです。
ふわり。
ひらり。
冬の世界にはなかった動き。
蝶は、春の空気が軽くなったことを
目で見せてくれます。
だから菜虫化蝶は、
啓蟄の結びにふさわしい候なのだと思います。
■ 今の暮らしで「菜虫化蝶」を感じる瞬間
現代の暮らしでは、
畑や菜の虫に触れる機会は減 see りました。
それでも蝶は、案外すぐそばにいます。
- 家の庭先
- 公園の植え込み
- 河川敷
- 学校の花壇
気づいたら、飛んでいる。
そして蝶を見ると、なぜか思うんですよね。
「あ、春だ」
気温でも、日付でもない。
蝶が飛ぶと、春は完成する。
暦はそれを知っていて、
啓蟄の終わりに蝶を置いたのでしょう。
■ 春の末尾に置かれた「変身」
啓蟄は、動く季節。
春は、始まる季節。
でも菜虫化蝶は、
春を「変える季節」として描きます。
春とは、世界が変身する時間なのだ。
そう言われているような気がします。
啓蟄・末候。
菜虫化蝶。
青虫が蝶になるころ、
春は、もう引き返せない場所へ来ています。

