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【霜降・末候】楓蔦黄(もみじつたきばむ)…11月2日頃~

楓蔦黄(もみじつたきばむ)もみじや蔦が黄葉する

🍁 自然 ― 山々が紅に染まるころ

  霜降の末候「楓蔦黄(もみじつたきばむ)」は、晩秋を締めくくる七十二候。
 読みは「もみじつたきばむ」。太陽黄経225度前後、暦の上では11月2日から6日ごろにあたります。
 文字の通り、楓(かえで)や蔦(つた)の葉が黄や紅に色づく季節です。

  木々は秋の日差しを浴びながら、葉緑素を失い、赤・橙・黄色と移りゆく。
 その変化はまるで自然が描く絵画のようで、冷たい空気の中に鮮やかな彩りが際立ちます。
 朝には白い霜が下り、日中は澄み切った青空に映える紅葉。
 夕暮れには西日を受けて葉が金色に輝き、風に舞う落葉が季節の詩を奏でます。

  蔦の紅葉もまた見事です。古民家の土壁や神社の石垣を覆う蔦が、秋の終盤に深紅へと染まり、
 その色が日ごとに濃くなっていく様子は、冬の到来を静かに告げています。

【霜降】(そうこう)           月: 九月中  太陽黄経:210°

  霜が降りるころ                            

末候 楓蔦黄
(もみじつたきばむ)

もみじや蔦が黄葉する

🏡 暮らし ― 冬支度の完成期

 この時期になると、山里では冬囲いの準備が本格化します。
 薪を積み、納屋を整え、庭木を縄で結わえて雪への備えをします。
 朝晩の冷え込みはぐっと強まり、白い息が見えるようになるころ。

 農作業は一段落し、田畑は静まり返ります。
 収穫を終えた稲わらは縄やしめ飾りに姿を変え、年末へ向けての手仕事が始まります。
 衣服は冬用の厚物に変わり、火鉢やこたつが常に居間の中心に置かれるようになります。

 また、文化的な行事では、七五三や秋祭りが行われる地域も多く、
 子どもたちの晴れ姿に、地域全体があたたかな空気に包まれます。
 霜降の末候は、まさに「冬を迎える心の準備」が整うころなのです。


🍎 旬 ― 秋の名残と冬の始まりの味覚

 この季節、旬の果物はまさに移ろいの時期。
 柿は「富有」や「次郎」などの甘柿が最盛期を迎え、干し柿づくりも盛んに行われます。
 りんごは晩生品種の「ふじ」が出回り始め、蜜の入った果実が市場に並びます。
 みかんは早生種が出荷され、冬の果実として親しまれる時期に入ります。

 野菜では大根・白菜が主役。鍋や煮物にぴったりの季節で、
 体を温める根菜や葉物が毎日の食卓に上るようになります。
 ほうれん草、春菊、小松菜などの青菜も霜に当たって甘みを増し、
 まさに「霜降野菜」と呼ばれる味わいに。

 魚介類では、ブリやカレイ、サケ、サンマなどが脂のり抜群の旬。
 また、北の海ではカニ漁が始まり、冬の味覚が姿を見せ始めます。
 晩秋の味わいは、心と体を温め、次の季節への栄養を蓄えるような深みがあります。


📚 文化 ― 紅葉をめでる心と詩情

 「楓蔦黄」の季節は、古来より紅葉狩り(もみじがり)の時期として親しまれてきました。
 紅葉を愛でる文化は平安時代に始まり、『源氏物語』や『枕草子』にも登場します。
 人々は紅葉のもとで和歌を詠み、自然の美に感謝しながら季節の移ろいを楽しみました。

 たとえば『古今和歌集』には、
 > 山のはに もみぢばしげく ちりぬれば 谷の流れは 錦なりけり
 という一首があります。
 散った紅葉が川面を流れ、まるで錦の布のように彩る情景は、まさにこの時期の象徴です。

 また、蔦が染まる様子は古い寺院や旧家の象徴的風景として描かれ、
 「蔦紅葉(つたもみじ)」は秋を締めくくる美の象徴とされました。
 紅葉が燃えるように色づき、やがて風に舞い散る姿は、
 人生のはかなさとともに、美しさの極致を教えてくれます。


🗓 暦 ― 秋から冬への境い目

 霜降の末候は、二十四節気の第十八節気「霜降」の終わりにあたり、
 次の節気「立冬(りっとう)」への橋渡しです。
 太陽の位置は黄経225度に達し、日照時間がいっそう短くなります。
 夜明けが遅く、夕暮れが早くなるにつれ、昼と夜の温度差が大きくなり、
 大地はゆっくりと冬の眠りへと向かっていきます。

 空気は澄み、遠くの山々までくっきりと見渡せる季節。
 気象的にも初霜や初氷の便りが届き始め、暦の上での冬が目前に迫っています。
 この候を過ぎると、北国では初雪の知らせが届くこともあり、
 まさに秋の終章と冬の序章が交錯する時期です。


💬 ひとこと

 紅葉が見頃を迎え、空は高く澄みわたり、季節は静かに冬へ。
 「楓蔦黄」は、自然が最後の彩りを燃やすように輝く瞬間です。
 その輝きは、儚さゆえの美しさ。散りゆく葉は命の終わりではなく、
 次の季節への約束を告げるものでもあります。
 秋の終わり、冷たい風に吹かれながら見上げる紅葉の木々に、
 人は無言の感謝と哀愁を感じ取ります。

次の七十二候… 立冬・初候

ひとつ前の七十二候… 霜降・次候

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