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自然 ― 雁渡る空と冷たい露
「寒露」は、二十四節気で白露・秋分に続く、晩秋の入り口を示す節気です。その初候「鴻雁来」では、北から冬鳥である雁が渡ってくるとされます。秋の澄んだ空を群れを成して飛ぶ雁の姿は、古来より季節を告げる光景として人々の心に焼き付いてきました。
朝晩の冷え込みは一段と増し、草花には冷たい露が宿ります。露はやがて霜に変わる前触れであり、昼夜の寒暖差が際立つ頃。野山では紅葉が広がり始め、稲刈りを終えた田んぼは静かな余韻を残しつつ、秋から冬への歩みを進めています。
【寒露】 (かんろ)
秋が深まり野草に冷たい露がむすぶ
月: 九月節 太陽黄経:195°

初候 鴻雁来
(こうがんきたる)
雁が飛来し始める
暮らし ― 冬支度の始まり
この時期の暮らしは、収穫を終えた安堵と、冬に備える支度が重なります。
薪や炭を蓄え、衣替えを済ませ、農村では稲わらを活用してしめ縄や農具の補修を行うなど、生活の準備が本格化します。
都市部でも、冷え込みに備えて寝具を入れ替える風習が残っており、古くは「夜具替え」と呼ばれていました。
露が冷たくなるこの時期は、冬の気配を感じ取り、生活を切り替えていく合図なのです。
旬 ― 実りを味わう秋の盛り
食材はまさに秋の充実期。新米は炊き立ての香りが格別で、栗やさつまいもと合わせた料理は秋ならではの味覚です。
里芋やごぼうなど根菜類も出揃い、煮物や汁物にすると体を温めてくれます。
果物では、柿やりんごが豊富に出回り、ぶどうや梨の晩生種も最後の旬を迎えます。
ふるさと納税の返礼品では、干し柿や果実酒、ジャムなど加工品も人気を集める時期です。
魚介では秋鮭や秋刀魚が脂を増し、きのこも多様な種類が食卓を彩ります。


文化 ― 雁を詠む心と秋の文学
雁は古くから和歌や俳句に多く登場します。
『万葉集』では「雁が音」に旅の寂しさや故郷への思いを託し、松尾芭蕉も「雁」という季語を用いて秋の情緒を表現しました。群れをなして渡る姿は人々の心を動かし、孤独や郷愁と結び付けられてきたのです。
また、この頃は秋祭りの季節。各地で神社に新穀を捧げ、五穀豊穣を感謝する行事が行われます。収穫の喜びを分かち合いながら、地域の絆を深める文化が今も受け継がれています。
暦 ― 晩秋の入り口
寒露の頃は、暦の上でも秋が深まり、やがて霜が降りる「霜降」へと続きます。昼と夜の長さの差はさらに広がり、日が短くなる実感が強まります。
農作業もひと区切りを迎え、自然は冬への準備に入ります。かつての人々は暦を手掛かりに、この時期を「実りと冬支度の境目」として大切に過ごしました。
ひとこと
雁の声が夜空を渡る頃、秋は次の段階へと歩みを進めています。
冷え込む朝に手をすくめながらも、食卓には新米や果物の恵みが並ぶ。
自然の移ろいと生活の知恵が重なり合う、豊かな季節のひとときです。
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