【寒露・次候】 菊花開(きくのはなひらく)…10月13日~

自然 ― 菊の花が開く季節

 寒露の次候「菊花開」は、その名の通り菊の花が咲き誇る頃を指します。日本では古来より菊は秋を代表する花であり、桜に並ぶ国花のひとつでもあります。

 この時期、庭や野辺には白や黄、紫の菊が咲き、冷えた空気の中に凛とした香りを漂わせます。朝霧に濡れる花弁は透き通るようで、派手さよりも清楚な美しさが際立ちます。

 秋の草花の代表である萩やすすきに加えて、菊が咲きそろうことで、景色はいよいよ晩秋の趣を深めていきます。

【寒露】 (かんろ)

    秋が深まり野草に冷たい露がむすぶ                       
   
                 月: 九月節  太陽黄経:195°

次候  菊花開

 (きくのはなひらく)

  菊の花が咲く

暮らし ― 菊に込められた長寿と無病息災

 菊は古くから「延命長寿」の象徴とされてきました。中国では霊薬と信じられ、日本に伝わってからも薬草や観賞用として珍重されました。

 菊の花や葉を酒に浮かべる「菊酒」、花びらを料理に散らす「食用菊」など、暮らしの中に取り入れる風習も各地で見られます。

 また、この時期は夜具や衣服を冬用に替えるタイミングでもあり、農村では収穫の終わりとともに保存食の仕込みや道具の整備が進められます。

 まさに「冬支度」が日常生活に浸透していく時期といえるでしょう。

旬 ― 食卓に広がる秋の彩り

 旬の食材はますます豊かになります。

 食用菊は独特の香りと鮮やかな色合いで酢の物や和え物に用いられ、秋の食卓に彩りを添えます。

 根菜では大根や人参が太り始め、鍋物や煮物の材料として活躍。サツマイモや栗は甘みを増し、新米と組み合わせた炊き込みご飯や和菓子に重宝されます。

 果物では柿が主役の座につき、梨やぶどうの後を受けて旬の中心となります。リンゴも品種ごとに味わいが異なり、収穫の最盛期へ。

 魚介では秋刀魚や秋鮭が脂をのせ、牡蠣の出荷も始まります。

 自然の恵みが一斉に集まる時期で、収穫の喜びを実感できるでしょう。

文化 ― 重陽の名残と菊の文芸

 菊にまつわる文化の象徴といえば「重陽の節句(ちょうようのせっく)」です。

 旧暦の9月9日、陽の数「九」が重なることから特別な日とされ、菊酒を飲んで無病息災と長寿を願いました。

 新暦ではすでに10月に入りますが、菊の咲く時期と重なり、各地で菊祭りや品評会が開かれます。

 文学にも菊は数多く登場します。

 和歌では「菊の露」「菊の香」が秋の寂しさと共に詠まれ、俳句では「菊日和」などの季語として親しまれました。庶民から貴族まで、菊は秋を象徴する花として人々の生活に根付いてきたのです。

暦 ― 晩秋へ向かう折り返し

 暦の上では、寒露から霜降へと移る途中。

 昼間はまだ日差しの暖かさが感じられるものの、朝晩の冷え込みは冬を予感させます。

 農作業では稲刈りや脱穀が終わり、畑は冬野菜へと移り変わっていきます。

 秋祭りや収穫祭は佳境を迎え、暦と暮らしの歩みが重なり合う時期です。

ひとこと

 澄んだ空気の中に咲く菊の花は、秋の静かな華やかさを映し出しています。

 花に託された長寿や無病息災の願いは、今を生きる私たちにも共鳴するもの。

 秋の食卓に菊の彩りを添えながら、季節の深まりを感じたい時期です。

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