【寒露・末候】蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)10月18日~

自然 ― 秋の虫の声が戸口に近づく

 寒露の末候は「蟋蟀在戸」。直訳すると「きりぎりすが戸口にいる」という意味です。

 秋の深まりとともに、野原に響いていた虫の音が家の近くまで寄ってくる頃を表しています。

 ここでいう「蟋蟀(きりぎりす)」は、現代のコオロギのこと。夜が冷え込み始めると、暖かさを求めて家の縁側や戸口に集まり、澄んだ音色を奏でます。

 その声は秋の終わりを告げる響きでもあり、日本人は古くからこの虫の声に風情を感じてきました。

【寒露】 (かんろ)

    秋が深まり野草に冷たい露がむすぶ                       
   
                 月: 九月節  太陽黄経:195°

末候 蟋蟀在戸

(きりぎりすとにあり)

蟋蟀が戸の辺りで鳴く

暮らし ― 戸口に響く秋の夜長

 虫の声はただの自然音ではなく、人々の暮らしと結びついていました。

 田畑での稲刈りや脱穀を終えた農家では、納屋や囲炉裏のそばで休むときに耳にする虫の声が、季節の移ろいを実感させるものでした。

 また、寒露の末候は夜の冷え込みが増すため、衣替えや火鉢・炬燵の準備が進められる頃です。

 虫の声を聞きながら夜長に針仕事や読書をするのも、この時期ならではの情景といえます。

旬 ― 秋の味覚が最盛期に

 食卓には秋の恵みが並びます。新米の季節もいよいよ終盤を迎え、炊きたてのご飯に秋刀魚や鮭を合わせるのが定番。

 柿やりんご、みかんも市場に豊富に出回り、果物は秋から冬へと移ろいを見せ始めます。

 きのこ類も盛りを迎え、松茸や椎茸、舞茸などが香り高く食卓を彩ります。

 保存性の高い根菜類が収穫され、漬物や味噌仕込みなど「冬支度の台所仕事」が活発になるのもこの頃です。

文化 ― 虫の音に耳を澄ます心

 日本文化では「虫の声を聞く」という行為そのものが季節の楽しみとされてきました。

 和歌や俳句には「こおろぎ」「松虫」「鈴虫」などの名が数多く登場し、その音色が寂しさや哀愁を象徴します。

 特に「蟋蟀在戸」は、ただ虫が鳴いているというだけでなく、人の暮らしに寄り添いながら季節を告げる存在として表現されています。

 欧米では虫の声は雑音とされがちですが、日本では「音楽」として愛でられる文化が育まれたのです。

暦 ― 霜降へと続く季節の橋渡し

 暦の上では、寒露の末候は秋の終盤を示し、次の節気「霜降(そうこう)」へと移る直前。

 文字通り「霜」が降りる季節が目前に迫っています。昼夜の寒暖差が大きくなり、山々では紅葉が一層鮮やかに色づき、里にも冷たい空気が流れ込んできます。

 虫の声が弱まっていくのも、この寒気の到来と歩調を合わせているかのようです。

ひとこと

 家の戸口に響く虫の声は、秋の終わりを告げるささやき。

 華やかな紅葉や豊かな実りの陰で、自然は静かに冬への準備を始めています。

 耳を澄ませば、わずかな音色から季節の深まりを感じ取ることができるでしょう。

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