――「わかっているつもり」で使われている言葉たち
和製漢語の多くは、
学校教育や日常会話の中で当たり前の言葉として使われています。
しかしその一方で、
- 本来の意味からずれて使われている
- 近代的な意味と混同されている
- 別の言葉と入れ替わって使われている
といった例も少なくありません。
ここでは、
特に誤解されやすい代表的な和製漢語を取り上げ、
意味の整理を行います。
目次
自由(freedom / liberty)
よくある誤解
- 「自由=好き勝手にしてよいこと」
- 「制約が一切ない状態」
本来の近代的意味
- 法や制度によって保障された行為の範囲
- 他者の自由と調整された自由
👉
自由は「無制限」ではなく、
社会の中で成立する概念です。
権利(right)
よくある誤解
- 「要求すれば通るもの」
- 「わがままの言い換え」
本来の意味
- 法によって認められた正当な主張
- 義務や責任と対になって存在するもの
👉
権利は、
主張であると同時に制度概念です。
民主(democracy)
よくある誤解
- 「多数決のこと」
- 「みんなの意見を聞くこと」
本来の意味
- 主権が人々にあるという原理
- 手続き・制度・権力分立を含む考え方
👉
多数決は、
民主の一手段にすぎません。
社会(society)
よくある誤解
- 「世間」「空気」
- 「自分の外にある圧力」
本来の意味
- 人々の関係がつくる構造
- 分析・理解の対象としての集団
👉
社会は「感じるもの」ではなく、
考える対象として生まれた言葉です。
経済(economy)
よくある誤解
- 「お金の話」
- 「景気の良し悪し」
本来の意味
- 生産・分配・消費の仕組み全体
- 社会を支える循環の構造
👉
経済は、
貨幣だけを指す言葉ではありません。
革命(revolution)
よくある誤解
- 「急激な変化」
- 「派手な改革」
本来の近代的意味
- 既存の体制・構造を根本から変えること
- 正当化された社会変革
👉
単なる変化や改良は、
革命とは呼びません。
国家(state)
よくある誤解
- 「政府と同じもの」
- 「為政者の集まり」
本来の意味
- 主権・領土・法を持つ制度体
- 政府よりも広く、持続的な存在
👉
国家と政府は、
同一ではありません。
国民(nation / people)
よくある誤解
- 「国内に住んでいる人」
- 「同じ文化を持つ人々」
本来の意味
- 国家に属する政治的主体
- 権利と義務を持つ存在
👉
国民は、
単なる居住者概念ではありません。
市民(citizen)
よくある誤解
- 「都市に住む人」
- 「一般人」
本来の意味
- 公共に参加する主体
- 国家を前提にしつつ、批判しうる立場
👉
市民は、
社会的役割を含んだ言葉です。
誤解が生まれる理由
和製漢語が誤解されやすい理由は、
次の点にあります。
- 教科書的定義だけが残った
- 成立背景が忘れられた
- 日常語として平板化した
本来は、
考えるために作られた言葉が、
使われすぎることで、
意味を失っていった側面があります。
おわりに――言葉を問い直すということ
和製漢語は、
近代日本が世界を理解するために生み出した
思考の道具でした。
誤用を責める必要はありません。
しかし、
- その言葉は、何を考えるために作られたのか
- どんな前提を含んでいるのか
を一度立ち止まって考えることは、
今でも十分に意味があります。
言葉を問い直すことは、
社会を問い直すことでもあるのです。
