――世を治め、人を救う言葉から、社会を動かす仕組みへ
「経済」という言葉は、
政治、生活、ニュース、学問――
現代社会のあらゆる場面で使われています。
しかしこの言葉もまた、
はじめから現在の意味を持っていたわけではありません。
「経済」は、
古くからあった言葉でありながら、
近代に入ってその意味を根底から変えた語の一つです。
目次
「経済」という語の本来の意味
「経済」は、中国古典に由来する漢語です。
- 経:すじ道を立てる、治める
- 済:救う、成し遂げる
もともとは
「経世済民(けいせいさいみん)」
――世を治め、民を救う、という思想に基づく言葉でした。
ここでの「経済」は、
- 国家運営
- 政治的配慮
- 民生の安定
を含む、
統治と倫理に深く結びついた概念でした。
近世までの日本における「経済」
江戸時代までの日本でも、「経済」は使われていましたが、
それは主に、
- 為政者の心得
- 政治と道徳の理想
- 世の中をうまく回す知恵
といった意味合いでした。
商いや金銭の動きは存在していましたが、
それらは「経済」そのものとは
明確に切り分けられてはいなかったのです。
economy との出会い
明治期、日本は西洋の economy という概念と出会います。
economy は、
- 生産
- 分配
- 消費
- 交換
といった活動を、
価値や資源の循環として捉える考え方でした。
これは、
倫理や統治の理想としての「経済」とは、
まったく異なる視点でした。
ここで起きた決定的な意味転換
日本は、economy の訳語として、
あえて「経済」という既存の言葉を選びます。
その結果、「経済」は、
- 統治の理想
から - 社会活動の仕組み
へと、意味を大きく転換させました。
経済は、
- 数量で測られ
- 法則として分析され
- 政策として操作される
客観的な対象になっていきます。
「社会」と結びついた経済
ここで、「社会」という言葉との関係が重要になります。
- 社会:人の集まりの構造
- 経済:その中を流れる価値と資源
経済は、
社会を動かす「血流」のようなものとして、
捉えられるようになりました。
これにより、
- 社会問題
- 経済政策
- 景気
- 不況
といった概念が、
言葉として定着していきます。
現代に残る「経済」という言葉
現代の「経済」は、
- 市場
- 産業
- 金融
- 国際関係
と密接に結びつき、
個人の暮らしにも直接影響を及ぼしています。
それでもなお、
「経済が人を救うべきだ」という感覚が残っているのは、
この言葉がもともと持っていた
倫理的な背景の名残でもあります。
おわりに──経済は、言葉によって姿を変えた
「経済」という言葉の変遷は、
社会の関心が、
- 統治の理想
から - 現実の仕組み
へと移っていった過程そのものです。
文明開化は、
市場や制度を輸入しただけではありません。
「経済」という言葉の意味を変えることで、
社会の見方そのものを変えた時代だったのです。
