――人の集まりから、近代を支える枠組みへ
私たちは「社会」という言葉を、
ニュースや学校、日常会話の中で当たり前のように使っています。
しかしこの「社会」という語も、
はじめから現在の意味を持っていたわけではありません。
それは近代に入り、
西洋の society という概念を受け止める過程で、
意味を大きく広げた言葉でした。
目次
「社会」という語の来歴
「社会」という語自体は、
中国古典にも見られる漢語です。
- 社:共同体の祭祀・土地に結びつく集団
- 会:集まる、寄り合う
本来は、
地域や信仰を軸とした人の集まりを指す言葉でした。
そこにあったのは、
顔の見える関係、身分や役割に基づく秩序です。
近世までの日本における「社会」感覚
江戸時代までの日本では、
- 村
- 町
- 家
- 身分
といった単位が、
人のつながりの基本でした。
人はまず「家」や「身分」に属し、
それを超えた抽象的な「社会」を
意識する必要はほとんどありませんでした。
「社会」は、
考える対象ではなく、暮らしそのものだったと言えます。
society という新しい問い
明治期、日本は society という概念に直面します。
それは、
- 身分や血縁を超え
- 個人が集まり
- 制度や法によって成り立つ
抽象的で可変的な人間の集合体でした。
この概念を受け止めるために、
日本は既存語の「社会」を用い、
意味を拡張していきます。
ここで起きた意味の転換
この再定義によって、「社会」は、
- 自然な人の集まり
から - 分析し、設計し、変えうる対象
へと変わりました。
社会は、
- 制度によって形づくられ
- 法によって支えられ
- 個人の関係性によって動く
一つの構造として捉えられるようになります。
「社会」が生んだ新しい言葉たち
「社会」という語が定着すると、
- 社会制度
- 社会問題
- 社会科学
- 市民社会
といった表現が次々に生まれます。
これは、
人の集まりを“考える対象”として扱い始めた証拠です。
文明開化は、
人々の暮らしそのものを、
思考の射程に入れました。
「哲学」「科学」との関係
ここで、これまで扱ってきた言葉との関係が見えてきます。
- 哲学:人間や世界をどう考えるか
- 科学:自然をどう理解するか
- 社会:人間の集まりをどう捉えるか
社会は、
自然ではなく、
人がつくり、変えていく世界を指す言葉でした。
現代に残る「社会」という言葉
現代の「社会」は、
- 経済
- 政治
- 文化
- 福祉
と深く結びつき、
個人の生き方そのものに影響を与えています。
それでもなお、
「世間」「世の中」という言葉が併存しているのは、
この語が持つ新しさと古さの重なりを示しています。
おわりに──社会は、考えられるものになった
「社会」という言葉の変遷は、
人々が自分たちの暮らしを、
外から見つめ直すようになった過程でもあります。
文明開化は、
制度や技術を導入した時代であると同時に、
「社会」という言葉を通して、
人の集まりを考え直した時代でした。
