【入梅】(にゅうばい)|夏至の約10日前。梅雨の季節。
しとしとと続く雨が、空と大地をゆっくりと濡らす季節。
雑節の一つ 「入梅(にゅうばい)」 は、毎年 太陽黄経80度に達する瞬間 をもって定められます。
夏至の約10日前。
梅雨入りの「暦の節目」であり、季節が本格的に湿りはじめる合図です。
気象庁の発表する梅雨入りと異なり、入梅の日時は毎年必ず計算で決まります。
雨脚の強弱は年により異なりますが、空気の重さ・土のにおい・紫陽花の濃い色――
それらがゆっくりと「夏の入口」としての湿り気をまとわせます。
目次
🌤 自然 ― 湿度が季節を連れてくる
空は白くかすみ、雲は低く流れ、風はぬめるように重くなるころ。
畑の土は水を含み、田の水鏡には揺れる雲が映り込みます。
紫陽花の青・紫・白が深まり、葉の上を転がる水滴は、まるで季節のまなざしのようです。
草木はこの湿りを受けて一気に伸び、山の緑は濃度を増し、苔は柔らかく深い色へ。
雨の日は静かで、晴れ間は蒸し、気温の上げ下げはゆるやかに夏へと傾斜していきます。

【入梅】(にゅうばい)
夏至の約10日前。梅雨の季節。
太陽黄経: 80°
🏠 暮らし ― 梅仕事・田植えの仕上げ・湿気との付き合い
この時期は 梅の収穫が佳境。
梅干し・梅シロップ・梅酒の仕込みは「入梅に始めるとよい」と伝わり、台所には青梅の香りが満ちます。
梅雨の湿り気は食材を傷めやすく、保存食と知恵が古くから育ってきました。
農家にとっては田植えの最終盤。
田に立つ稲の苗は雨を吸い、夏の稔りへ加速してゆきます。
一方、衣類や紙類は湿度に弱く、換気や除湿、風を通す工夫が暮らしの要に。
🍚 旬 ― 走りの夏野菜と、梅の香り
入梅は「湿りと成長の季」――野菜の力強さが増す頃です。
- 新じゃが、新玉ねぎ、ズッキーニ、空豆、トマト
- きゅうりのぬか漬け、青梅の仕込み
- 魚では初鰹、梅雨鯵(つゆあじ)、岩牡蠣(地方差あり)
青さがみずみずしく、香りも濃く、食卓には夏の走りが届きはじめます。
📚 文化・ことば ― 「梅に入る」季節の重み
入梅という語には 湿り・重さ・みずみずしさ が宿ります。
洗濯物は乾かず、空は低く垂れ、靴は湿り、心も曇りがち――
けれど同時に、田の芽は伸び、梅は熟れ、夏へ向けて命は満ちてゆく。
「入梅」とは、
陰りとみずみずしさが同居する季節感そのものです。
💬 ひとこと
雨の日の窓越しに見える紫陽花の色が、ひそかに深くなっていく――。
季節は静かに、しかし確かに夏へ向かっています。
湿りを嫌う日があり、雨音に癒やされる日もある。
入梅は、そんな揺らぎごと受けとめる季節です。
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