目次
🌤 自然 ― 若葉が満ち、季節の境い目がふっと明るむ
八十八夜は、二十四節気ではなく雑節のひとつ。
名前のとおり《立春から数えて八十八日目》にあたり、毎年5月初旬ごろ。
山の緑は薄い萌黄から深みを帯び、里には柔らかな風が渡る季節です。
田畑には水が入り、おだやかな陽射しに土の匂いが立ちのぼり、
野に山に新緑が一気に濃くなっていく――春の終盤と初夏の入口が重なる
「季節のわずかな段差」のようなタイミングです。
この頃に吹く風は冬の鋭さを完全に失い、肌にふわりと触れます。
遠くには入道雲の気配すら漂い、ほんの数日前の春とは明確に違う。
八十八夜とは、まさに **『春を見送り、夏を迎える一歩手前の瞬間』**です。
雑節
【八十八夜】
(はちじゅうはちや)
立春から数えて88日目。
晩霜への注意。

🏠 暮らし ― 茶畑の朝、野良仕事の匂い、長い季節の始動
八十八夜といえば 茶摘み。
童謡にも歌われるように、茶畑に人が出て柔らかな一番茶を摘み取る頃です。
🎵 夏も近づく八十八夜 ちゃんちゃん 🎵 この歌、知ってますよね?
私のような老人にはとても懐かしい歌で、歌ってしまいますね。
「茶摘み歌」
夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは
茶摘じゃないか
茜襷(あかねだすき)に菅(すげ)の笠
日和つづきの今日此の頃を、
心のどかに摘みつつ歌ふ
摘めよ 摘め摘め
摘まねばならぬ
摘まにや日本の茶にならぬ
また、八十八夜は、農業の吉日で、お茶を摘んだり、種籾を蒔いたりする時期とされています。
ただ、思わぬ冷え込みもある時期で、霜が降ると大変になります。
そういえば、お茶畑には、よく防霜ファンが設置されていますよね。
そういうことだったんですね。
八十八夜の忘れ霜、という言葉があるそうです。
八十八夜は喜びと慎重さが同居する――そんな季節の作業日です。
🍃 旬 ― 初夏の香りが舌に届きはじめる
この頃、旬を迎えるのは一番茶だけではありません。
- 新ごぼう・そら豆・新たまねぎ
- 筍の名残、山菜の最後の恵み
- 初物きゅうり、えんどう豆、絹さや
- 初夏の果物 ― 甘みの出始める梅、青梅仕事が始動
台所に立つと、冬と春を抜けてきた食卓の色が変わるのが分かります。
淡く青い香り、新しい季節の苦み、豆の柔らかい甘さ。
食べ物で季節が変わるとはよく言ったものです。



📚 文化・ことば ― 「八十八は米」縁起と祈り
八十八という数は、**米(こめ)**という字を分解した形にも例えられ、
五穀豊穣を願う縁起の良い数字として古くから尊ばれました。
新茶は不老長寿・邪気を払うとされ、
農事の開始を祝う節句のような意味も含められ、
歌の明るさと裏腹に、実は農耕の始動と祈りの日でもあります。
💬 ひとこと
青さがまぶしく、土があたたかくなる。
春の終わりの寂しさと、夏の始まりの期待。
その境目にある一日の空気こそ八十八夜の魅力です。
茶畑の風の音を思い浮かべながら――
季節は静かに、確実に、夏へと歩み出します。
参考記事

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