── 竹林に息吹が立ちのぼるころ
目次
🌿 自然 ― 地中の力が、一気に姿を現す
二十四節気「立夏」の末候は 竹笋生(たけのこしょうず)。
漢字の通り ―― 竹の子が地表へと顔を出す季節 を指しています。
立夏は初夏の入口、草木が勢いを増し、光の密度が濃くなる頃。
そのクライマックスのように、この末候では地中で蓄えてきた力が一気に伸び上がり、
竹の芽はわずか数日で丈を越えてしまうほどの成長を見せます。
朝見なかったものが夕方には膝まで伸びる――
そんな誇張ではなく、本当に起こり得る速度で竹は伸び続けます。
初夏の大気は湿りを帯び、夜明けには白く光る朝露が笹の葉を濡らし、
山には若い音の気配がみなぎります。
「竹の子の伸ぶ音が聞こえる」
古い人はそう言いました。
成長の勢いを音に感じたほど、この時期は生命が爆発的です。
【立夏】 (りっか) 月: 四月節 太陽黄経: 45° 夏の気配が感じられる

末候 竹笋生
(たけのこしょうず)
筍が生えて来る
🏠 暮らし ― 掘る・待つ・香りを楽しむ
たけのこは「今を逃すと味が変わる」食材の代表。
掘りたてほど柔らかく、えぐみが少なく、香りは清々しい。
古くは「朝掘り・朝ゆで」が鉄則と言われ、採ったその時から味が落ち始めるとされました。
都市では手に入りにくくなりましたが、
旬の地方では湯気の立つたけのこご飯、若竹煮、木の芽味噌和え。
素朴でありながら、この季節にしか出せない清い味です。
山里では、竹林の管理と収穫が生活の一部でした。
伸びすぎた竹は光を奪い、田畑や家まわりに影響するため、
人は採り、いただき、山と折り合いをつけて暮らしてきました。
食文化はただの旬ではなく、自然との均衡の結果 でもあったのです。
🍽 旬 ― 今だけの香りと柔らかさ
- たけのこ・筍(旬の主役)
- 若竹煮/たけのこご飯/土佐煮/木の芽味噌
- ふき・わらび・ぜんまい など山菜も最終盤
- 初夏の魚:鰹(初鰹)、イサキ、あじ
- 果物:びわ、夏みかん
たけのこは単独で季節を象徴する力を持ちますが、
山菜の余韻と、海からくる初夏の脂の軽い魚と合わせると、
季節の流れが舌でわかる組み合わせになります。



📚 文化 ― 竹はまっすぐ、迷いがない
竹林は風とともに揺れながら、強くしなやかで折れにくい。
その姿は 潔さ・成長・再生 の象徴とされ、
茶道・武家文化・神事にも深く結びついてきました。
竹の子は「再び伸びる命」を表し、
成長と出発の季節を実感する符号でもあります。
庭に筍が出るのを待つ家、
山の恵みを鍬(くわ)で掘りあてる朝。
日々の暮らしは、節気そのものだったのかもしれません。
💬 ひとこと
地中で眠っていた命が、一気に天を目指す季節。
見えないところで蓄えられた時間が、
ある日、突然形となって現れる――
そんな変化のスピードは、私たちにも励みをくれます。
今はまだ芽でも、いつか伸びる。
初夏の風は、静かにそう告げているようです。
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