――和製漢語がつくった「近代の政治語彙」
近代国家を語るとき、
避けて通れない言葉があります。
- 革命
- 国家
- 国民
これらはいずれも、
近代日本で意味を大きく作り替えられた和製漢語です。
制度や憲法より先に、
日本はまず、
政治を考えるための言葉を必要としていました。
目次
「革命」という言葉の再発明
古い意味の「革命」
「革命」は、中国古典に由来する言葉です。
本来は、
- 王朝が天命を失い
- 新たな王朝に入れ替わる
という、
天命思想に基づく王朝交代を意味していました。
そこにあったのは、
民衆が主体となる発想ではありません。
revolution の訳語としての「革命」
近代に入り、日本は revolution と出会います。
revolution が意味していたのは、
- 旧来の秩序を打破する
- 人々の意思による体制転換
- 社会構造そのものの変革
という、
主体的・構造的な変化でした。
日本はこの概念に、
既存語である「革命」をあて、
意味を大胆に書き換えます。
こうして「革命」は、
王朝交代 → 社会変革
を意味する近代語になりました。
「国家」という言葉が示した転換
国家は、もともと何を指していたか
「国家」も、古くからある漢語です。
近世までの日本では、
- 国 = 領域
- 家 = 支配者の家
という結びつきで理解され、
国家とは、
為政者が治める領土
という感覚に近いものでした。
state を受け止めた「国家」
近代における state は、
- 領土
- 主権
- 法
- 制度
からなる、
抽象的で持続的な統治体です。
日本は「国家」という語に、
- 支配者個人を超えた存在
- 永続する統治機構
- 法に基づく体制
という意味を与えました。
国家は、
人格ではなく制度として理解されるようになります。
「国民」という新しい主体
「民」はいたが、「国民」はいなかった
「民」という言葉は、
古くから存在していました。
しかしそれは、
- 支配される人々
- 保護の対象
- 統治の客体
を指す言葉でした。
nation / people の訳語としての「国民」
近代に入り、日本は、
- nation
- people
という概念を受け止めます。
そこでは人々は、
- 国家を構成する主体
- 権利と義務を持つ存在
として捉えられていました。
この新しい主体を表すために、
「国民」という言葉が用いられます。
国民とは、
国家に属し、国家を支える主体
を意味する、
まったく新しい政治語彙でした。
三つの言葉がそろったとき
- 革命:体制を変える力
- 国家:統治の枠組み
- 国民:政治の主体
この三語がそろって初めて、
近代政治を言語化する条件が整いました。
文明開化とは、
政治制度を導入する以前に、
政治を語る言葉を獲得する過程だったのです。
和製漢語としての特徴
この三語には、共通点があります。
- すべて既存の漢語を再定義
- 西洋語の概念を受け止める器として使用
- 日本で整理された意味が、中国語にも影響
つまり、
古い言葉に、新しい政治思想を注ぎ込んだ
典型的な和製漢語です。
おわりに──政治は、言葉から始まる
革命も、国家も、国民も、
最初から明確な実体があったわけではありません。
それらはまず、
言葉として理解され、語られ、共有される
ことで、現実の制度になっていきました。
和製漢語は、
近代日本が政治を考えるために整えた、
思考のインフラだったのです。
