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秋の土用とは
「土用(どよう)」といえば夏の「丑の日」に鰻を食べるイメージが強いですが、実は年に4回あります。
立春・立夏・立秋・立冬の前、およそ18日間がそれぞれの土用。つまり「秋の土用」は 立冬前の約18日間(10月20日ごろ~11月7日ごろ) にあたり、秋から冬への「季節の橋渡し」の時期です。
この頃は紅葉が進み、朝晩の冷え込みがぐっと強まる時期。農村では稲刈りが終わり、保存食づくりや冬支度が本格化します。
五行思想では「土」が司る期間であり、体調を崩しやすいとされてきました。そのため 無理を避け、体を整える養生の時期 とも言われています。

【土用】(どよう)
秋の土用は立冬前の18日間のこと、
今年の土用の入りは10月20日
秋の土用 太陽黄経: 207°
自然と暮らしの風景
秋の土用は、実りの秋が終わり、冬に備える静けさが漂う頃。
- 山では木の葉が色づき、柿や栗が実る。
- 農家では大根や白菜の収穫、干し柿や漬物の仕込み。
- 朝には霜が降り始める地域もあり、火鉢やこたつを出す家も。
こうした日常の一コマ一コマが「冬を迎える準備」として積み重なっていきます。。
秋の土用に味わう旬の食材
この時期は、体を温め、栄養を蓄える食材が多く出回ります。
- 柿(甘柿・渋柿)
「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほど栄養豊富。ビタミンCとカリウムで風邪予防や疲労回復に。 - 里芋・さつまいも・長芋
ほっくり甘いさつまいも、ねっとりした里芋、滋養強壮に効く長芋。煮物や味噌汁で体を温めます。 - 大根・白菜
冬の漬物の準備に欠かせない。浅漬けや煮物にすると、消化を助け体調を整えます。 - 豆類(小豆・大豆)
乾燥させて保存することで冬の貴重なタンパク源に。小豆粥や味噌、豆腐などに加工。 - 秋サバ
「秋サバは嫁に食わすな」という言葉があるほど脂がのり、美味。EPAやDHAが豊富で血液をサラサラに。
保存食づくり ― 冬に備える知恵
秋の土用は「仕込みの季節」でもあります。旬の食材を保存する工夫は、冬の生活を支える大切な知恵でした。
干し柿
- 渋柿を皮むきし、縄に吊るして秋風と日差しで乾燥。
- アメ色になり、自然な甘みが増す。冬のおやつや正月の菓子として重宝。
- ポイント:カビ防止のため、焼酎を吹きかける方法もある。
切り干し大根
- 大根を細切りにして天日に干す。
- 煮物や味噌汁、炒め煮にすると旨味が濃く栄養価もアップ。
- 保存性が高く、冬の間の常備菜に。
漬物
- 大根の沢庵漬け、白菜の浅漬け、ぬか漬けなど。
- 野菜の栄養を長く保持し、乳酸発酵で腸内環境を整える効果も。
豆の保存と加工
- 収穫した大豆を乾燥し、味噌や醤油の仕込みに。
- 小豆は正月のお汁粉や赤飯に使うため、保存しておく。
魚の保存
- サバやイワシを塩漬けや干物に。寒風干しにすると旨味が凝縮。
- 地域によっては「へしこ(鯖のぬか漬け)」の仕込みも。
土用と文化・信仰
土用には「土を動かしてはいけない」という言い伝えがあり、建築や農作業を控える風習が残る地域もあります。
一方で、保存食づくりや収穫祭などはむしろ盛んで、地域の共同体行事の基盤ともなっていました。
秋の土用は、夏ほど派手な行事はないものの、暮らしに根づいた静かな「区切り」の期間。稲刈り後の収穫祭や秋祭りが行われる時期とも重なります。
暦と土用のタイミング
国立天文台の暦要項では、秋の土用入りは 太陽黄経207度 の時刻と定義されています。
令和8年(2026年)の秋土用入りは10月20日18時13分。
暦が数字で示す瞬間が、暮らしの「冬支度の合図」となるのは面白いものです。
ひとこと
秋の土用は、実りの秋と冬の扉をつなぐ大切な時間。
旬の果物や魚を味わい、干し柿や切り干し大根を仕込み、体を温める食材をいただく――そのすべてが昔の人の 知恵と養生 でした。
現代でも、スーパーに並ぶ干し柿や漬物を手に取るとき、遠い昔の「秋の土用」の暮らしを感じられるかもしれません。
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