特集③:十三夜・十六夜など ― 名月以外の月を愛でる文化

名月だけではない「月見」

 中秋の名月(十五夜)はよく知られていますが、日本人はそれ以外の月も大切にしてきました。

十三夜、十六夜、立待月、居待月、寝待月など――。

これらは月の出る時刻や形の変化に寄り添った呼び名で、月をただ「満ち欠け」で捉えるだけでなく、暮らしの時間感覚や心情にまで結びつけてきた文化の表れです。

十三夜 ― 日本独自の名月

 「十三夜(じゅうさんや)」は旧暦の9月13日の月を指します。

十五夜の次に美しい月とされ、「後(のち)の月」と呼ばれてきました。

平安時代から愛でられた風習で、栗や豆を供えることから「栗名月」「豆名月」とも呼ばれます。

十五夜と十三夜の両方を観賞することを「二夜の月見」といい、どちらか一方しか見ないのは縁起が悪いとされました。

十六夜(いざよい)と「ためらいの月」

 十五夜の翌日は「十六夜(いざよい)」と呼ばれます。

「いざよう」とは「ためらう」という意味で、月の出が十五夜よりもやや遅れることからついた名前です。

ここに、人々が自然のわずかな遅れを敏感に感じ取り、言葉として残した日本語の繊細さが見てとれます。

立待月・居待月・寝待月

 十七夜は「立待月(たちまちづき)」と呼ばれ、立って待つほどの短い待ち時間で月が出ることから名づけられました。

十八夜は「居待月(いまちづき)」で、座って待つ程度には月の出が遅くなります。

十九夜は「寝待月(ねまちづき)」で、寝て待つほど遅い時刻に月が昇るのです。

こうした名前には、夜の過ごし方と月の出を重ね合わせた生活感覚が込められています。

有明月と夜明けの情景

 二十夜以降の月は夜明け近くまで空に残ることが多く、「有明月(ありあけづき)」と呼ばれます。

夜と朝の境界に輝く月は、和歌や俳句にも多く詠まれ、恋や別れ、もののあはれを象徴する存在でした。

月の呼び名に込められた文化

 これらの呼び名は、天文学的な正確さよりも、人々の暮らしの感覚や情緒に寄り添っています。

夜空を眺めるとき、ただ「満月」と呼ぶのではなく「十六夜」と感じることで、自然との距離がぐっと近づくのです。

現代に受け継がれる「月待ち」

 今日では都市生活で夜空を見上げる機会は減りましたが、十三夜や十六夜といった呼び名は、カレンダーや歳時記に今も残っています。

国立天文台の暦計算室では毎年の月の満ち欠けを確認でき、現代でも「今日は十三夜か」と気づくことができます。

月の呼び名は、千年以上続く日本の時間感覚を今に伝えているのです。

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