東を向く神社・南を向く神社|方位に決まりはあるのか

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神社はどの方角を向くものなのか

ここまで、神社の「向き」について考えてきました。

第1記事では、社殿の向きだけではなく、その方向に何があるのかを見る必要があること。

第2記事では、山・水・海・集落など、神社が置かれた場所との関係。

第3記事では、三輪山を例に、方角そのものよりも**「何に向かって祈るのか」**が重要な場合があることを見てきました。

そこで、いったん最初の疑問に戻ってみましょう。

神社には、そもそも「この方角を向く」という決まりがあるのでしょうか。

東。

西。

南。

北。

今回は、東西南北という「方位」そのものを見ていきます。


「南向き」が基本なのか

日本の古い建築を見ると、「南面」という言葉をよく目にします。

神社の文化財資料にも、南を正面とする社殿は数多く確認できます。

たとえば福島県相馬市の涼ケ岡八幡神社では、境内南側に門があり、境内中央の本殿・幣殿・拝殿はいずれも南面しています。ところが同じ境内でも、摂社・末社には東面・西面する社殿があります。

つまり、一つの神社境内を見ただけでも、

南向き

東向き

西向き

が共存する例があるのです。

この事実だけでも、

神社の建物はすべて南を向かなければならない

という一律の決まりでは説明できません。


なぜ南向きが目につくのか

では、なぜ「南向き」という印象が強いのでしょうか。

日本では、宮殿や寺院、住宅などでも南面する建築が多く見られます。

日照。

地形。

建築配置。

儀礼空間。

中国から伝わった宮殿・都城などの空間思想。

さまざまな要素が関係してきました。

神社も歴史の中で、建築や社会制度の影響をまったく受けずに存在したわけではありません。

ただし、ここで注意したいのは、

南向きの社殿があることと、神社本来の祈りが南を向くこととは別問題

だということです。

この二つを分けて考える必要があります。


東を向く神社もある

東面する神社建築も実際にあります。

文化庁の国指定文化財等データベースを見ると、たとえば大阪市の阿倍王子神社旧本殿について、

境内南辺に建ち、東面する

ことが記録されています。

また山口県周防大島の神社本殿にも、山の中腹に位置し、東面して建つ例が文化財資料に記録されています。

つまり、

東を向く社殿そのものは、特別な例外ではありません。

しかし、ここでも慎重に考える必要があります。

東は太陽が昇る方向です。

だからといって、

東向き=日の出を拝むため

と直ちに結び付けることはできません。


「東向きだから太陽」はまだ早い

これは第2部で特に大切にしたいところです。

ある神社の本殿が東を向いていた。

その事実を確認する。

次に、

東=日の出

と考える。

ここまでは自然です。

しかし、

日の出を意識して東向きに造営した

と結論づけるには、別の根拠が必要です。

地形上、東側に正面を設けるのが自然だった可能性もあります。

参道との関係かもしれません。

集落との関係かもしれません。

神聖な山や祭祀の場所が東側にあったのかもしれません。

そして、現在の社殿が創建当初と同じ位置・方向とは限りません。

したがって、

向いている方角

その方角を選んだ理由

は、分けて考えます。


西を向く神社もある

第1記事で取り上げた住吉大社は、その違いをよく示す例です。

文化庁の資料では、第一殿・第二殿・第三殿が西向きに並び、第四殿も加えた本殿四棟が特徴的な社頭を構成していることが確認できます。

住吉大社公式でも、四つの本殿がすべて大阪湾のある西を向いていると説明されています。

ここで注目したいのは、

「西」という抽象的な方位だけではない

ことです。

その方向には大阪湾があります。

住吉大神と海上交通・航海との関係を考えれば、

西向き

だけを見るより、

海のある方向を向く

という地理的関係も考えなければなりません。

第2記事で見た「方角の先に何があるのか」という視点が、ここでも必要になります。

大阪・住吉大社 表参道・西鳥居


北向きなら異例なのか

では、北向きはどうでしょう。

南・東・西に比べると、北向きの社殿は少ないという印象を持つかもしれません。

しかし、

北向きだからおかしい

と考えるのも早計です。

山の位置。

境内の地形。

道路や集落との関係。

既存の祭祀空間。

神社が成立した歴史。

こうした条件によって、建物の方向は変わり得ます。

大切なのは、

北だから特殊

と判断することではなく、

なぜ、その神社ではその方向になったのか

を個別に見ることです。


同じ境内でも方角は違う

ここで、先ほどの涼ケ岡八幡神社の例がもう一度重要になります。

文化庁の記録によれば、中心となる本殿・幣殿・拝殿は南面しています。

一方、境内にある摂末社には東面するもの、西面するもの、南面するものがあります。

これは非常に分かりやすい例です。

もし神社建築に、

「神を祀る建物は必ず南向き」

という絶対的な規則があるなら、このような配置は説明しにくくなります。

実際の神社空間は、もっと複雑なのです。


方位だけで神社を分類しない

ここまで見ると、

南向きの神社

東向きの神社

西向きの神社

という分類そのものはできます。

しかし、それだけで祭祀の意味まで分類できるわけではありません。

同じ東向きでも、

山に向かうもの。

集落に向かうもの。

参道との関係でそうなったもの。

地形に沿ったもの。

そして、もしかすると太陽との関係を持つもの。

理由は同じとは限りません。

つまり、

方角は「答え」ではなく、調べ始めるための手掛かり

なのです。


建物の向きと祈りの向き

さらに、第1記事で確認した区別も忘れてはいけません。

本殿の正面。

神座の向き。

拝殿の正面。

参道。

参拝者が祈る方向。

これらが必ず一致するとは限りません。

出雲大社は、そのことをよく示します。

文化庁の「日本遺産」の資料では、本殿内部の神座が西、稲佐の浜の方向を向いていることが明記されています。

したがって、

「出雲大社は何向きか」

という一言だけでは、内部の祭祀空間まで説明できません。

「何の向きを見ているのか」を明確にする必要があります。


方角には「その先」がある

ここまで第2部で繰り返してきたことが、ここでも一つにつながります。

東なら、その先に何があるのか。

西なら、その先に何があるのか。

南なら。

北なら。

山。

海。

川。

集落。

祭祀の場所。

そして空。

神社の方角を考えるとき、本当に面白いのは、

方位そのものより、その方向の先に何があるのか

なのかもしれません。


そして「東」には日の出がある

それでも、東という方角には一つ特別な現象があります。

太陽が昇ることです。

もちろん、日の出は一年中真東から昇るわけではありません。

夏には北寄りへ。

冬には南寄りへ。

春分・秋分のころには、ほぼ東から昇ります。

つまり「東」と一言でいっても、太陽が昇る位置は季節とともに動いているのです。

ここで初めて、

方角

季節

が直接つながり始めます。


「日の出を迎える神社」はあるのか

ここまでの記事では、太陽との関係を意図的に後回しにしてきました。

それは、

神社が東を向いている

太陽信仰

という単純な説明を避けるためです。

しかし、方角そのものを確認した今なら、次の問いへ進むことができます。

実際に、日の出と深い関係を持つ神社はあるのでしょうか。

そして、

特定の日の出を意識したと考えられる場所はあるのでしょうか。

ここから先は、神社の向きだけではなく、太陽の動きも確認しなければなりません。

いよいよ第2部は、地上から空へ進みます。


まとめ

神社の社殿には、南面するものもあれば、東面・西面するものもあります。文化庁の文化財資料でも、一つの境内に異なる方向を向く社殿が共存する例を確認できます。

したがって、

神社は必ず特定の方角を向く

という単純な決まりだけでは、実際の神社を説明できません。

そして、方角が分かっても、それだけで向きの理由が分かるわけではありません。

山なのか。

海なのか。

地形なのか。

人々の暮らしなのか。

あるいは空なのか。

方角は、答えではなく入口です。

そして次の記事では、その入口からいよいよ空を見上げます。

神社と日の出には、どのような関係があるのでしょうか。


主な史料・参考資料

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